マザルブルのしょ

概要

カテゴリー物・品の名前
スペルBook of Mazarbul

解説

モリア復興を試みたバリン率いるドワーフの一党が自らの足跡を記録した書。

入植1年目(第三紀2989年)の記述にはじまり、最後は5年目(2994年)にしてマザルブルの間に一党が包囲されて、ワレラ出ズルコト能ハズ。イマハノ時来ル――太鼓ノ音、深キ所ヨリ太鼓ノ音――今ヤカレラ至レリという記述で終わっている。バリンの死について述べた文章や、最後の今ヤカレラ至レリの記述はオーリによって記されたと推察される。

しかしそのうちの一つの打ち割られたふたのそばに、本の残骸が転がっていました。それはめった切りにされた上に刀を突き刺したあともあり、ところどころ焼け焦げたところもありました。それに、古い血のあとのような黒っぽいしみもついていて、読めるところはほとんどないといっていいくらいでした。ガンダルフはそっとそれを持ち上げたのですが、墓石の上に置くだけで、綴じたページがパリパリと音をたててくずれました。かれは本の上にかぶさるようにして、しばらくの間口も利かずにじっと読みふけっていました。かれのそばに立っていたフロドギムリは、ガンダルフが用心深くページを繰るごとに、これが多くの異なった筆蹟のルーン文字で書かれていることを知りました。おもに、モリア谷間の国の言葉ですが、ここかしこにエルフ文字もありました。*1

指輪の仲間がモリアを通過した時にマザルブルの間で発見され、ガンダルフによって一部が解読されたが、モリアの暗闇と書の損傷の激しさのために、その場で全ての内容を精査することはできなかった。そのため後にもっとよく調べるようにとギムリに手渡された。その後作中でこの書に関する記述はないが、ギムリによって無事持ち帰られたものと思われる。

マザルブルの書に記されている入植の試みとその失敗

「マザルブルの書」に述べられている入植の顛末は以下の通りである。

第三紀2989年、エレボールを去ったバリンの一党はモリアに入り、入植が開始される。かれらは入植1年目にしておぼろ谷にある大門に巣食っていたオークを掃討し、やがて第二十一広間(指輪の仲間が野営した広間)を占拠。バリンマザルブルの間を玉座と定めてモリアの領主を名乗るなど、当初の復興は順調だった。彼らは黄金やドゥリンの戦斧といった財宝を発見し、ミスリルの精錬にすら着手したと思しい。

しかし入植5年目の2994年11月10日に、バリンは独りで鏡の湖を覗きに出かけた際、岩陰に潜んでいたオークに射殺され、非業の死を遂げる。バリンの遺骸は玉座のあったマザルブルの間に葬られた。入植者たちは銀筋川を遡って襲来した新手のオークにより包囲攻撃を受け、大門を閉ざして籠城したが長くはもたなかった。同年の内に、彼らはドゥリンの橋と第二広間を敵に奪われる。さらにモリアの壁にある西門はシランノンの湖に侵されており、西門へ向かったオーインは、湖に潜んでいた水中の監視者に捕らえられて殺される。

ワレラ出ヅルコト能ハズ。イマハノ時来ルと悟った、わずかに生き残った者達はマザルブルの間に拠って最後の抵抗を試みたものの、やがて深キ所ヨリ太鼓ノ音が聞こえ(ドゥリンの禍ことバルログが到来したものと思われる)、一行は扉を打ち破られて全滅した。

「モリア奪回の試みもかくてついえたか! 壮挙ではあったが、愚挙であったともいえる。時はまだ熟してはいなかった。」*2

バリンの一党 (Balin's folk)

作中の記述からバリンの一党だと判明している人物は以下の通り。

マザルブルの書の「写し」

トールキンは『指輪物語』の執筆中にガンダルフが読み上げるページのレプリカを製作し、本の付録にしようとしていた。これはページの傷や汚れまで再現するほどのこだわりようだったが*3アレン・アンド・アンウィン社は費用がかかりすぎるとして反対し、結局『指輪物語』には収録されなかった。トールキンはマザルブルの書の悲劇性のためには是非とも損傷したページを読者に示すことが必要と考えていたようである。*4
このレプリカは後に、トールキン作品カレンダーや『Pictures by J.R.R. Tolkien』『トールキンによる『指輪物語』の図像世界』『The Art of The Lord of the Rings by J.R.R. Tolkien』に収録された。

マザルブルの書 第1ページ マザルブルの書 第2ページ マザルブルの書 第3ページ

第1ページ

エレボール・モードのキルスで英文が書かれている。

音写
1
3
1we drovə aut orks from [the] great gatə & gard
2…m & tōk [the] first hall. we sleu many in [the] br
3?ʒt sun in [the] dalə. Flōi waz killed by an arr
4ou he sleu [the] great…eft……Flōi
5under grass near mirrormer……kamə
6………ken
7?e repai………
8……………
9we havə takən [the] twentyfirst hall ? norþen
10nd to dwell in ðerə iz g… air……
11………ðat kan eas…
12watčəd……[the] šaft z klear……
13Balin has set up his seat in [the] čambər v Maz
14arbul………
15gold………
16……………
17……wonderful ?? Durin Axe...sil
18mbər helm balin…h?s t??en ðəm for his oun
19Balin z nou lord v Moria
******
20……y todai we found truəsilvər
21mt……welforgəd…
22n? koat…?ll v purest miþri?......
23Ōin to sēk for [the] uppir armouriəs v [the] þird dēp
24…go westwards to s…to [the] hollin gate

「これはバリンの一党の運命を記した記録のようじゃ。」と、かれはいいました。「わしの推測するところでは、ほぼ三十年近い昔、かれらがおぼろ谷にやってきた時から書き始められたものと思われる。ページにはここにきてからの年度を示す番号がついているようじゃ。最初のページは一の三(one ― three)となっておる。だから最初から二ページ欠けているわけじゃ。これを聞かれよ!
大門ヨリおーくドモヲ追イ払ヒ、部屋ヲ(We drove out orcs from the great gate and guard)――と、書いてあるようじゃ。次の言葉が焼け焦げていてはっきりせぬが、恐らく――守備セリ(room) ――じゃろう。――ワレラハ力戦シテ谷間ノ明ルキ(we slew many in the bright)――とある次は、きっと――日ノ下デ多クヲ倒セリ(sun in the dale.)、じゃろう。ふろいハ矢ニアタリテ討チ死ニセルモ、大物ヲ打チ倒シヌ(Flói was killed by an arrow. He slew the great.)。それから――鏡ノウミニ近キ草ノ下ニふろいハ(Flói under grass near Mirror mere.)――とあり、そのあとの語はにじんではっきりせぬ。次の一、二行も読めぬ。それからそのあとは――ワレラハ北ノハズレノ第二十一広間ヲノットリ、居室ト定メヌ。ココニハ(We have taken the twentyfirst hall of North end to dwell in. There is)――そのあとが読めぬが、採光筒(shaft)のことに触れてあるようじゃ。それから――ばりんハまざるぶるノ間ギョクヲ定メタリ。(Balin has set up his seat in the Chamber of Mazarbul.)」
「記録の間の意味です。」と、ギムリがいいました。「今わたしたちがいる所だろうと思います。」
「さて、そのあとはもうずっと読めぬ所が多い。」と、ガンダルフがいいました。「おうごん(gold)とか、ドゥリンのせん(Durin's Axe)とか、それに何とかかぶと(helm)とかといった語が見えるだけじゃ。そのあとに――ばりん、もりあノ領主トナル(Balin is now lord of Moria.)――とある。これで章が一つ終わっているようじゃ。いくつか星印があって、今度は別の手で書かれておる。ワレラハマコトノ銀ヲ見イダセリ(we found truesilver)――とあるのが読める。そのあとに――せいれん(wellforged)――という言葉があって、それから何か書いてあるな。わかったぞ! みすりる(mithril)――じゃ。それから最後の二行は――おいんハ第三深層ノ上部武器庫ヲ求メテ(Óin to seek for the upper armouries of Third Deep)――か。一ヵ所にじんでわからぬが――西ノ方ひいらぎごうノ門ヘ行ク(go westwards, ... to Hollin gate.)――とあるな。」

第2ページ

フェアノール文字を用いて英文が書かれている。ギムリによると、このページの文章を書いたのはオーリである。

音写
1………?rs
2sins……?eady
3sorrow……estrə
4day beiŋ ð tenþ v novembrə
5Balin lord v Moria fell
6in dimrill balə, he went alonə
7to look in Mirrormerə. ? ork
8šot him from behind ? stonə ??
9slew v ork but many morə ka…
10p from east up ð Silvərlowdə…
11we resk…b…b?l……
12…a šarp battlə……
13we havə barred ð gatsə but d…f
14…kan hol? ðəm loŋ if ðərə
15no esk…l be ? horibl……
16suffrə ― b…šall hold
5

ガンダルフは、口をつぐんで、黙ってページを幾枚かめくりました。「ここのところの数ページはだいたい同じようなものじゃ。急いで書かれており、破損がひどい。じゃが、この明かりでは何と書いてあるかほとんど判読ができぬ。ここでまた何枚か失くなっておるに違いないな。というのは、番号が移住地コロニーの第五年を示すものと思われる(five)に移っておるからじゃ。ええと、待てよ! いや、読めぬ。やはり切られておるし、汚れておる。日の光の中ならもっとよく読めるかもしれぬ。はてな! ここに読めるところがある。エルフ文字を用いた大きい肉太の筆蹟じゃ。」
オーリの筆蹟でしょう。」ギムリがそういって、魔法使の腕越しにのぞき込みました。「かれなら上手に速く書くことができましたし、よくエルフの字を使っていましたから。」
「かれはせっかくの美しい書体で、よくない知らせを記さねばならなかったようじゃ。」と、ガンダルフがいいました。「はっきり残っている最初の言葉は――悲シミ(sorrow)――じゃ、同じ行のあとの部分は終わりが(estre)となっておるほかは何もわからぬ。そうじゃ、これは(yestre)に違いない。――昨日ハ十一月ノ十日ナリ(day being the tenth of novembre)――と次に続くのじゃ。――もりあノ領主ばりんオボロ谷ニテ討タル。鏡ノ湖ヲノゾカントヒトリ出カケシガ、岩蔭ニヒソミタルおーくコロサレヌ、ワレラカノおーくヲ討チ取リシモ、サラニアマタノ……東ヨリ、銀筋川ヲサカノボリ……(Balin lord of Moria fell in Dimrill Dale. He went alone to look in Mirror mere. an orc shot him from behind a stone. we slew the orc, but many more … up from east up the Silverlode.)このページの残りはほとんど判読しがたいほど汚れておるが――ワレラハ門ヲトザシ(we have barred the gates)――それから――シバラクハ保チ得ン。タダ(can hold them long if)――それからこれは多分――恐ロシキ(horrible)――じゃ。それから――カウム(suffer)――じゃ。バリンはかわいそうなことをしたのう! モリアの領主の称号を帯びたのも五年に満たなかったようじゃから。……

第3ページ

エレボール・モードのキルスと、最後の一文はフェアノール文字で英文が書かれている。

音写
?
1we kannot get aut. we kanot getaut
2ðhey havə takən [the] bridjə & sekond h
3?ll Fraar & lōni & naali fell ðe
4?i b……rest retr……
5maz…bul…we st?? ho……
6?. but hope z…n…ōins p
7…y went 5 dais ago bu? ?odai ? only
84 r…nəd. [the] pōl z up to [the] wall
9at westgatə. [the] watčər in [the] watər tō
10k ōin ― we kannot get aut. [the] end com
11əs sōn we hear drums, drums in [the] dēp
12ðey arə komiŋ

……そのあとどのようなことが起こったのじゃろうか。が、今は最後の数ページを判読している暇はない。ここにあるのが終末のページじゃ。」かれは口をとざし、それから、溜息をもらしました。
「恐ろしい記録よ。」と、かれはいいました。「かれらはむごい最期をとげたものとみえる。聞かれよ!――ワレラ出ヅルコトアタハズ、ワレラハノガレ得ズ。ト第二ノ広間ハスデニカレラノ手中ニ落ツ。ふらーるろーになーりハカシコニテ討チ死ニセリ。(We cannot get out. We cannot get out. They have taken the Bridge and second hall. Frár and Lóni and Náli fell there.)――続く四行は不鮮明で、わずかに――五日前ニ行キシ(went 5 days ago.)――と読めるだけじゃ。最後の数行にはこう書かれておる――池ハ西門ノ壁ニ達セリ。水中ノカンシャおいんヲ、トラフ。ワレラ出ヅルコトアタハズ。イマハノ時来ル(the pool is up to the wall at Westgate. The Watcher in the Water took Óin. We cannot get out. The end comes,)――そしてそのあとに――太鼓ノ音、深キ所ヨリ太鼓ノ音(drums, drums in the deep.)――とある。これはどういうことじゃろう。最後にひきずるようなエルフ文字のなぐり書きで――今ヤカレラ至レリ(they are coming.)――とある。あとはもう何も書いてない。」ガンダルフは言葉を切り、黙って物思いに耽ったまま立ちつくしていました。

映画『ロード・オブ・ザ・リング』における設定

マザルブルの間の場面で原作通り登場。映画『ホビット』のメイキングによると、書を抱えている遺体はオーリである。トールキンが製作したレプリカよりも傷や汚れが少なく、ページの文章が容易に読み取れる。

最初のページはキルスと、フェアノール文字で以下の文章が記されている。丸括弧内は推測。キルス、フェアノール文字ともに方式は原作のレプリカと同様のもの。

and so we komə to ōr final hop(e)
Ōin z goind to [the] westgatə to see
if we kan eskap(ə) ðat wai

ð orks havə taken all ð lower
(le)vels nd ð upper halls to ð
fifþ level, our storəs v food
arə runniŋ low nd we havə no
water to driŋk, unless oin
čan find a way out at ð west
gatə we arə dooməd weðer ð
orks get us or not,

moria will not be ours

次のページはトールキンのレプリカの3ページ目を再現したもので、全文が読み取れる。

we kannot get aut. we kannot get aut.
ðey havə takən [the] bridjə & sekond hall.
Fraar & Lōni & Naali fall ðerə br
avəly wʰilə ðe rest retreated to
Mazarbul. we still hold [the] čambe
r but hopə z fadiŋg now. Ōins p
arty went 5 dais ago but todai on
ly 4 returnəd. the pōl z up to [the] wall
at westgatə. [the] watčər in [the] watər tō
k Ōin ― we kannot get ait. [the] end ko
məs sōn. we hear drums drums in the
dēp
ðey arə komiŋ

ゲーム『ロード・オブ・ザ・リングス オンライン』における設定

マザルブルの間にて、オークに襲撃されたときの混乱のためであろう、指輪の仲間はマザルブルの書をマザルブルの間に置き忘れたことになっている。冒険者がマザルブルの間の瓦礫の中から、書を発見する場面がある。

コメント

最新の6件を表示しています。 コメントページを参照

  • 指輪物語に現代のホラー作品に連なる要素があるとしたらこれではないでしょうか? -- 2015-07-27 (月) 00:37:33
    • この下りを読み終わった時、背筋に冷たいものを感じました。暗い所で読むとさらに怖さ倍増です -- 2015-07-27 (月) 00:39:20
    • と言うか旅の仲間自体、敵の正体がはっきりしてない分、全体的にホラーとかサスペンス色が濃くて後半二作よりも不気味 -- 2015-11-26 (木) 12:58:56
  • 最後の記述はほとんど遺書みたいだな・・状況を想像すると恐ろしい・・・・ -- 2015-11-26 (木) 07:19:37
  • いま、これのレプリカを作れば、多少コストがかかって価格が高くなっても、買う人は多そうだ -- 2015-11-26 (木) 11:49:04
    • で、購入者が次々と不審な死を遂げるんですね(笑) -- 2015-11-27 (金) 00:05:41
    • ワンルームで白骨化して発見とかイヤだぞ…! -- 2016-01-24 (日) 00:10:18
  • 映画で怖かったシーンのひとつ。太鼓の音が響いた時、書物の内容を思い出して背筋が一気に凍ったよ……とほほ…… -- 2016-02-20 (土) 01:23:18
    • そして同じ太鼓の音が映画ホビットのからすが丘で響いたとき、悲劇が起こるのだと当時原作未読の自分にもわかった・・・。 -- 2016-02-21 (日) 01:44:04
  • この、話の本筋から見れば割とどうでもいいグッズのレプリカをあえて付録に付けようとしたあたり、教授が本気で「神話」を作ろうとしてたのが窺える。赤表紙本として抜き出された指輪をめぐる話は全体の一端に過ぎなくて、モリア奪還の悲劇を含む無数のエピソードの積み重ねで中つ国世界を作っているというか -- 2016-02-21 (日) 02:52:48
    • 今回の力の指輪製作陣にもその「中つ国の創造欲」が1/10000でも欲しかったなぁ。いや、高い意欲や情熱は感じるし評価してるんだが、なんかズレてるんだよね…。
      「最高級ステーキを細胞培養肉から再現して作ってみせます!」
      みたいな。普通に銘柄肉焼いてくれたらそれでいいんだけど…。 -- 2023-01-04 (水) 17:15:47
  • 教授凝り性過ぎよな。このwiki見て初めて知ったけどレプリカエピソードめっちゃ好き。 -- 2023-01-04 (水) 11:52:29
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