西境 の赤表紙本 †
概要†
解説†
ビルボ・バギンズ、フロド・バギンズ、そしてサムワイズ・ギャムジーによって主に書かれた、第三紀末の歴史および指輪戦争に関する重要な史料集。
エラノールを祖とし、西境の区長を勤めた髪吉家に所蔵されたため「西境の」と呼ばれた。またこれらの本は全5冊よりなり、赤皮で装幀され、同じ赤いケースに収められていたため「赤表紙本」の名で呼ばれる。
一冊目は元々はビルボの日記兼回顧録であり、彼の最初の冒険に関する記述が書き込まれた後、資料を引き継いだフロドが指輪戦争の記録で残りページのほとんどを埋め、それを引き継いだサムワイズによって最後の数章が記されて完成された。
残りの三冊は「エルフ語から翻訳したもの」と題されており、ビルボが裂け谷において収集した主に上古にまつわる膨大な伝承資料からなっている。
最後の五冊目は髪吉家に所蔵された後に付け加えられたもので、注解や系図、その他フロドの同志のホビットに関する事跡が記されていた。
とびらには表題がいくつも書かれていて、それが次々と線で消してありました。こういうふうにです。
わが日記。思いよらざりしわが旅の記。往きて還りし物語。またその後の出来事。
五人のホビットの冒険。大いなる指輪の物語、編者自身の観察記録とその友人たちの口供とをもとにビルボ・バギンズ編集す。指輪戦争でわれらのなしたことども。
ここでビルボの筆跡は終わり、次にフロドの手で書かれていました。
指輪の王
の没落と
王の帰還
(小さい人たちの見たこと。ホビット庄のビルボとフロドの回想録に基づき、友人たちの口供ならびに賢者たちの知識によって、補足された。)
裂け谷においてビルボの訳した伝承の諸本からの抜粋を含む。*2
赤表紙本の原本は現存しないが、写本や抄本の類が数多く作られ、現代に伝えられている。
それらの中で最も重要なものは、赤表紙本の最初の写本である「セイン本」から作られた、フィンデギル筆写による大スマイアルに収蔵されていた写本であろう。
「ミナス・ティリスのセイン本」とは、ペレグリン・トゥックがゴンドールに隠退するときにエレッサール王に献じたもので、ミナス・ティリスでエルフ語に関する内容や「アラゴルンとアルウェンの物語」をはじめとした数々の付記や注釈が施された。
「大スマイアルの写本」は第四紀172年(ホビット庄暦1592年)にゴンドールの王の祐筆フィンデギルによってセイン本から細部にいたるまで完全に筆写されたもので、ビルボの「エルフ語から翻訳したもの」といった他の伝本では失われたり除かれたりした内容を多く残しているという点で重要なものである。
以上のような錯綜した系統関係のため、現存する諸伝本の間には少なからぬ異同があり、検討すべき資料も膨大なものになる。
トールキン教授がこれらの伝本および関連資料の内容を比較検討し、西方語で書かれた内容を「英語に翻訳」して出版したものが『ホビットの冒険』や『指輪物語』、および『シルマリルの物語』などである、ということになっている。
その他の史料†
西境の赤表紙本の他にも、バックルベリやタックバラの文庫に収蔵されていた数々の史料が現存している。
特にバック郷の館主メリアドク・ブランディバックの著した「ホビット庄本草考」「紀年考」「ホビット庄の古語および古名」、セイン・ペレグリン・トゥックらが収集した「西国年代記」「黄皮表紙本」といった史料は『指輪物語』に大いに採録・活用されている。
トールキンによる設定としての赤表紙本†
トールキンは自著『指輪物語』『シルマリルの物語』執筆の上で、上述したような詳細な物語内設定を設け、第三者に対して自著の内容を説明する時にはその設定を踏まえた「伝承の研究者・翻訳者」という立ち位置からコメントすることを好んだ。
これには一つには、 これらの物語群は“既知”のものとして心に浮かんできました。 … 常に私は、すでに“そこに”、つまりどこかにあるものを記録しているという感じを持っていました。自分で“作り上げている”という感じではなく。*3 というトールキンの執筆感覚に根ざした理由があった。
またその一方でこの設定は、ある時は意図して、またある時は意図せずして、トールキンの重視する物語の「内的一貫性」に大きく資する技巧要素としても機能した。
『ホビットの冒険』の初版では、ビルボがゴクリから指輪を手に入れたくだりは、なぞなぞ遊びに負けたゴクリが大人しく引き下がったという描写になっていた。ところがトールキンが続編として『指輪物語』を執筆していくにつれて、ゴクリおよび一つの指輪は『ホビットの冒険』のそれよりもはるかに邪悪な性質が付与されていき、描写に不一致が生じることになった。
トールキンは『指輪物語』公刊に先立って『ホビットの冒険』を続編の内容に合うように改稿したが、これは「伝承史料をトールキンが編纂したもの」という設定を採ることによって、本来ならば単なる矛盾で終わったはずのこの不一致を「伝本の違いによる内容の異同」「ビルボの嘘が修正されないままの版を参照した結果」として作中で説明し、世界観を補強するものとして逆手に取ることができた*4。
これは、トールキンの膨大な未整理の遺稿を息子のクリストファが整理し刊行することになった時にも一定の効果を発揮した。『シルマリルの物語』序文においてクリストファは、本文の調子が必ずしも一致していないことについて次のような言及をしている。
父は、『シルマリッリオン』を、長い年月を通して伝承された結果生き残ってきたさまざまな材料(詩、年代記、口承伝承など)が、後代に至って収集され、その内容が要約されて出来上がった物語として着想するに至ったのである。このような着想は、この本自身の歴史とも酷似している。なぜなら、それ以前に書かれた散文や詩の多くがこの本の土台になっているからである。それ故、ただ制作上の構想の上だけではなく、ある程度は事実においても、本書は要約して語られた物語なのである。
また特に「翻訳」の問題については西方語#翻訳についても参照のこと。
映画『ロード・オブ・ザ・リング』における設定†
コメント†
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