本広克行監督の映画『ビューティフルドリーマー』は実写版『うる星やつら2』メイキング風映画である

さて、先日に映画『ビューティフルドリーマー』を見てきました。

元々この映画は、押井守監督の脚本を原案としているそうで(ただ原案では舞台は映研ではなく、軽音楽部だったそうです)、実際予告動画などを見ると、『ビューティフルドリーマー』という映画は『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』のカットやセリフをあちこちで再現していて、多大なる影響、オマージュが明確に現れているのは明らかです。 その一方で以前からこのサイトで何度も触れているように、この映画の宣伝方針として「『うる星やつら』の言葉は出さない」ということが貫かれているのは明らかであり、公式でもその言葉は徹底的に伏せられています。また企業系映画情報・ニュースサイトでも、間違いなく配給側の圧力によって『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』の言葉を使うのはひたすら避けられています(そうしないと配給会社のお怒りを買い、今後の取材などでハブられる可能性があるから。日本メディアや配給会社のこういった姿勢は珍しいことではない)。

ですがそんなことを言っていてはこの映画の本質は語れません。配給会社の意向など知ったことではない私がひと言で表現すると、「本広監督による『ビューティフルドリーマー』は『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(以下『うる星2』)を実写映画化したらどうなるか、という過程を見せるメイキング風映画」です(以後ちょいネタバレあり)。

“メイキング風”というのは、一応この作品が単独の映画として成立するものであると同時に、本物のメイキングのように「ここは○○の意図があって○○のように撮った」とは登場人物が語っていないからです。一方で“メイキング風”であるがゆえ、この映画に特にオチらしきオチはありません。「作中でキャラクターが映画化しようとしている脚本“夢見る人”は、「完成させようとしてもトラブルが起きて結局完成しない、いわくつきの脚本」と語り継がれていたそうですが、結局劇中の“夢見る人”撮影では大したトラブルも起きず(「まあ自主映画とかならありがちだよね」という程度のトラブルです)、“いわく”についてもあまり触れられないまま話は進んでいます。しかも『ビューティフルドリーマー』という映画のエンディングは「映画が完成した、良かったね」とか「やっぱりこの脚本は呪われている……!」みたいな終わりでもなく、「まだまだ撮影は続く」という感じです(一応締めとなる重要なセリフはありますが)。映画のメイキングを見るのが大好きな私はそれでも十分楽しめたのですが、これが万人向けかというと微妙かもしれません、ましてや『うる星2』を見たことがない人にとっては。

実写版『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』メイキング映画で得られたもの

『うる星2』を知らない人にとっては、疑問に思うことが多々あるでしょう。一応作中のセリフなどで「“夢見る人”は夢の中で、同じ毎日が繰り返されるというストーリーである」ところまでは何となく想像できるようになっていますが、あくまで「何となく」です。そして『うる星2』を見ていない人は「彼らが撮影しているのは、どんなシーンでどんな意味があるんだ?」と疑問に思うこと多数ではないでしょうか。なぜスタッフは戦車を撮りたがるのか? なぜ校長先生がハゲである必要があり、コタツに猫の着ぐるみがいるのか? 作中でスタッフは「給湯室のシーンは重要」と語っていたか、なぜか? あたる(に相当する “夢見る人”のキャラ)がなぜ2人出てくるのか? なぜスカイダイビングするのか? これらは全く説明されていないので、『うる星2』を知らない人は「よくわからない変な映画作っているなあ」と思うか、疑問符が浮かびすぎで映画に集中できないかのどちらかでしょう。

一方で『ビューティフルドリーマー』は『うる星2』を作中劇としたことで、『うる星2』に対するメタフィクション的な言及を可能にしました。例えば、『うる星2』でしのぶが、風鈴の舞う路地に迷い込むシーンを“夢見る人”でも再現し、その様子を窓越しに眺めている男性まで再現していますが、この男性を演じたキャストは自分がどういうポジションで、どういう役目なのか疑問を持って監督に質問しています。これは『うる星2』が公開されたとき実際にファンの間で議論になりました。また幼い少女の「責任取ってね」というセリフについても、スタッフ達はセリフの意味を議論しようとしています。これまた『うる星2』公開時にファンの間で実際に議論になった点であり、『うる星2』を知っていれば、そういう場面が楽しめます。裏を返せば『うる星2』を知らない人にとってはなぜ議論が必要なそのシーンを撮影しているのか、やはりわからないということでもありますが。

つまるところ「実写で『うる星2』を撮影しているんだ、みんな楽しそうだ」「ああ、『うる星2』のあの場面を実写で再現したら、こういう撮影方法になるんだな」というふうに楽しめるのがこの映画最大の魅力であり、『うる星2』を知っている人は『ビューティフルドリーマー』を見る価値は十分にあります。ぶっちゃけると私にとっては、押井守監督による舞台劇『鉄人28号』のメイキング風映画『28½ 妄想の巨人』よりも楽しめました。

と、押井守ファンしか見ていない、ほぼ間違いなく『うる星2』を見たことがある人しか読まないこのサイトならではの切り口から『ビューティフルドリーマー』について語ってみました。

余談ながら、一部の人はこの映画を見て「怒った」そうです。この映画の原案は押井守監督であり、『うる星2』の「学園祭前日という、同じ日を繰り返す」というモチーフは(過去のフィクション作品で前例はありますが)間違いなく押井氏のテイストです。しかしながら『うる星やつら』は高橋留美子氏の漫画が原作であり、あたる、ラム、面堂終太郎、三宅しのぶ、サクラといったキャラは高橋氏が生み出したものです。それをほぼそのまんま流用するのはいかがなものなのか? 権利的にいいのか?(『うる星2』ももちろん押井氏が単独で権利を持っているわけではない) 記事などで徹底的に『うる星やつら』の言葉を使うことを禁じたのもその辺にあるのかもしれませんが、まあ私の知ったことではありません。