特別企画「なんだか色々と聞いてきました」最終回 さらに続くアニメBD/DVDマーケティングの話 なぜか『true tears』の話まで

アニメBD/DVDマーケティングの話も聞いてみましょう」の続き。特別連載企画も今回が最終回。

「ぶっちゃけ、『true tears』のBDは出るんですか?」

あとバンダイビジュアルの方にBDの話を聞くなら「このことも聞いておかないと」と思い、杉山氏がこの作品の担当でないことは百も承知で聞いてみた。「『true tears』のBDは出るんですか?」

『true tears』は2008年1月より放送が開始され、2008年3月から9月にかけてDVDがバンダイビジュアルより発売されたTVアニメだが、Blu-ray Disc Association(BDA)が実施した「あなたがBlu-ray化して欲しいアニメ作品は?」のアンケートでトップを取っている。

【やじうまAV Watch】あなたがBlu-ray化して欲しいアニメ作品は? -AV Watch

この話は既に杉山氏も存じていたが、『true tears』を実際にBDで出すか否かは「まだ正式にはお答えできない」という。11月10日付で、BD化が正式発表

元々『true tears』はHDで制作され地デジでHD放送された、非常にクオリティの高いアニメだった。そのため「なぜBDで出ないのか」という声が、DVD発売当時から高かった。それがあだとなってBD化待ちの買い控えが発生したからなのかもしれないが、作品自体の評価の高さとは裏腹に、DVDのセールスは振るわなかったという。

なぜ『true tears』のBDが放送直後に発売されなかったかについてだが、杉山氏は「自分は担当ではなかったので、推測ですが」と断りつつ「単に当時のBD普及率の問題だったのでしょうし、生産スケジュールなどの問題で、DVDとBDが同時に発売できる状況ではなかったんだと思います」と語った。

最初は大変だったTVシリーズアニメのBD発売

バンダイビジュアルのTVシリーズBDとして、最初にBOXではなく単独で発売されたのは『機動戦士ガンダムOO』。『OO』のDVD第1巻発売日は2008年1月25日だったが、その直前の1月23日になってBD版の発売決定が発表された。だが実際に発売されたのは、ずいぶん遅れて8月22日になってからである。

「DVDは発売日の1ヶ月前にマスターを納品してもなんとか発売できますが、当時BDは、エンコードに時間がかかりましたし、AACSから承認番号を貰うのにも時間がかかりました。そのため発売日の3~4ヶ月前にマスターを納品しなければならなかったんです」(杉山氏)

『ガンダム』の名前を背負った売れ線タイトルでも、TVシリーズのソフトのBDを出すのにそれだけ苦労していたのだ。そのため知名度に劣る『true tears』がBDで出なかったのは致し方なかったのかもしれない。なお『OO』のBDは、BD発売発表がDVD発売前ぎりぎりだったことや、BD発売日が遅れたことなどが原因か、販売実績の比率はDVDに比べるとBDはかなり低かったそうである。

もうアニメはDVDではなくBDの時代?

だがその後、BDのエンコード技術などが進化し、マスター納品から製品発売までの時間がどんどん短くなっていく。2008年7月25日に発売された『マクロスF』では、TVシリーズアニメとして初めてDVDとBDの同時発売が可能となった。結果として『マクロスF』のパッケージは、最終的にはDVDよりもBDの発売本数が上回ることになったという。

さらに現在、値下げされた新型が投入されたPS3は飛躍的に売り上げを伸ばしているということもあるため、BDの再生環境がある家庭はどんどん増えている。

新型PS3国内初週販売台数は約15万台-エンターブレイン調べ - ファミ通.com
新PlayStation 3が発売から3週間で100万台売上を達成 -AV Watch

もちろん、ファミリー向け作品などだとBDよりもDVDのほうが需要が高いだろうし、「BDで見たいと思わせるクオリティのアニメか」ということも絡んでくるだろう。だが、もうアニメはDVDではなくBDの時代と言ってもいいのではないだろうか。

アニメBDのマルチリンガル時代は来ない?

BDがぼちぼち出始めた頃、私は「BDによって、アニメもマルチリンガルの時代になるのだろうか」という可能性について考えた。BDの場合、日本とアメリカではリージョンが同じだからそのまま再生できるわけで、「じゃあTVアニメのソフトを日本で出すとき、最初から英語字幕をつけておけば、海外のコアなユーザーはすぐに通販で買うんじゃないのか。ファンサブ問題の解決にも繋がるんじゃないか」とも思ったのだが、杉山氏によるとそうはいかないようだ。英語字幕(ものによっては英語吹き替え音声も)は日本で作っているわけではなく、海外のライセンシーが制作したものを収録するケースが多い。そうなると(字幕が既にできている既存ソフトをBOXなどで再販する場合は別として)字幕が入ったソフトを作るのに時間がかかり、日本での販売が遅れてしまう。まず第一に、日本でソフトが売れなければ元も子もない。

かといって、最初から英語字幕を作れる体制を日本に用意したとしても、海外マニアがamazonで注文するのを頼るだけというわけにはいかず、宣伝も海外で展開しないとならない。それでやっていけるのか、元は取れるのか……。

そのため結局は以前と同じ「海外仕様版は海外のディストリビュータと契約して、そちらに販売を委託する」という状態が続いているようである。

余談……児童ポルノ規制とアニメについて

以前私も触れたが、既にあちこちで触れられているとおり、児童ポルノに相当するものを「アニメやゲームなどの、架空のキャラクター」にも適用して規制すべきだという意見がある。もしそのような法律ができた場合、制定された内容によっては「児童のように見えるものの裸が出ていたらことごとく法律違反」になる可能性もある。そうなるとアニメ業界は、過去資産をことごとく廃棄しなければならない。最近のバンダイビジュアル製品でもやばそうなものが思い浮かぶ(もちろん制作者側は「ポルノとして作ってはいない」と主張するが、法律ができたらポルノかどうか判断するのは、どこかの誰か別の人間である)。法律解釈によっては、過去に遡ってどれだけ多くの作品がひっかかるか、見当もつかないことになる。

その点についても杉山氏に聞いて色々と語ってもらったのだが、ほとんどが杉山氏の私見でもあるので、氏の希望によりここには掲載しない。ただ「もしそういう法律ができたら、当然守らないとならないでしょう」とのことである。もちろんそうだろう。だがそうだとしたら先に書いたとおり、過去資産の大量廃棄が待っているかもしれない。

では「いきすぎた表現の規制には反対する」という声を公式に上げようという動きがアニメ業界などにあるのかということについて聞いてみたところ、杉山氏は「実際に動いているかはわかりません」とのことだった。私としては、早く動かないと手遅れになると思っているのだが。黙って法律ができるのを見ているだけだと、「PSE問題で仕事を失った」というのと同じようなことが、アニメなどの世界で繰り返されるかもしれない。

てなわけで……

以上で今回の特別連載企画「なんだか色々と聞いてきました」は終了となる。私の不躾な質問に色々と答えてくれた杉山氏ほか、今回の取材にかかわってくれたバンダイビジュアル、ソニーPCL、ソニーの方々に感謝したい。

さてこの取材は元々『攻殻S.A.C.』が発端だったわけで強引にそちらに話を戻すと、『攻殻機動隊S.A.C. & 2nd GIG BD-BOX』全4BOX購入特典である、BD Live特典の実機デモによる取材も行わせて貰えるかもしれないとのこと。これが実現したらまた掲載したい。(『攻殻S.A.C. BD-BOX』のBD Liveコンテンツを体験してきたに掲載