青少年健全育成条例改定案 その2

青少年健全育成条例改定案について書いた文章の続きです。

以前私は日本のアニメ・マンガ・ゲームは児童ポルノ規制によって滅亡の危機という文章にて、

また、規制推進者の言い分は「架空の人物を描いた児童ポルノを見た人間は、実際に実在する児童に対し犯罪を行う」ということですが、その理論の根拠は全く提示されていません(では、殺人の場面を描いたドラマを規制しますか?)。逆に規制によって「被害者もいない、合法的な欲望のはけ口」を封じられた人間が、実際に「被害者のいる犯罪」を犯す可能性が高くなるでしょう。

と書きました。この論に説得力を与えてくれる数値を山本弘氏が提示されていたので、紹介させて頂きます。

山本弘のSF秘密基地BLOG:「非実在青少年」規制:目に見える形で反論を提示する

アメコミ・ファンならご存知だろうが、アメリカでは1949年ごろから、精神科医フレドリック・ワーサム博士が、コミックスが青少年に与える害を説きはじめた。当時のコミックスには、残酷なシーンやセクシャルなシーン(斧で切断された首、目をナイフでえぐられようとしている女性、ムチで打たれている女性、きわどい衣裳で踊る女性、下着姿で縛られた女性などなど)が多かったのだ。こうしたコミックスは青少年を堕落させ、犯罪に走らせると考えられた。
全米で激しい反コミックス運動が起きた。出版社やニューススタンドには「俗悪なコミックスを売るな」という抗議が殺到。一部の地方では、大量のコミックスが学校の校庭などに集められて燃やされた。
1954年、合衆国議会の少年非行対策小委員会は「コミックブックと非行」と題するレポートを発表、青少年に悪影響を与える可能性のある表現を規制するよう、コミックス出版界に勧告した。
これを受け、全米コミック雑誌協会は「あらゆるコミュニケーション・メディアの中でもっとも堅苦しい」と彼ら自身によって評されたコミックス・コードを制定した。1954年8月26日のことである。

(中略)

暴力表現や性的な表現にきびしい規制が設けられた結果、コミックス界全体から活力が失われた。ニューススタンドがコミックスを置かなくなったこともあり、読者の多くがコミックスを買わなくなった。
コミックス・コード制定前、コミックス誌は650タイトルもあり、毎月1億5000万部も発行されていたのだが、ほんの数年で半減してしまった。多くの出版社がコミックスから撤退した。フィクション・ハウス社やベター社など、倒産した出版社もいくつもある。
その結果、アメリカの犯罪は減っただろうか? 
(中略) コミックス・コードが施行された54年以降、アメリカの犯罪は減るどころか、急カーブを描いて上昇しており、1980年には3倍にもなっている!

(中略)

【規制によるメリット】

  • 表現を規制すれば青少年への悪影響が少なくなって犯罪が減る。(ただし証明されていない。データは正反対の相関を示している)

【規制によるデメリット】

  • 表現を規制すれば逆に犯罪が増える可能性がある。(因果関係は証明されていないが、相関関係はある)
  • 出版業界、アニメ業界、ゲーム業界が打撃を受け、多大な経済的損失が生じる可能性が高い。
  • 冤罪事件や言論弾圧に悪用される危険がある。

ところで東京都は「表現の弾圧ではない」という反論を発表しています。

【Web】「表現の弾圧ではない」 東京都が青少年健全育成条例改正案を説明 - MSN産経ニュース

ここで強姦や近親者との性行為を肯定的に描くなど青少年の感性がゆがむような表現が規制対象となる。現在も月3~4冊が『不健全図書』に指定されているが、極端に増えることはないと書かれていますが、この口約束が守り続けられる保証は全くありません(なぜなら法で境界線が敷かれているわけではありませんから)。

マンガ家の環望氏は、以下のように書いています。

非実在青少年規制について - 環屋

ご存知の方も多いでしょうが、以前僕はコンビニで売られるエロ漫画雑誌で連載しておりました。
その頃から規制は頻繁に行われていましたが、不思議だったのは規制の基準がやたらとブレること。
理由は簡単で、担当者が替わると規制もブレルのです。
男性が検閲(と、僕は呼んでいた)担当だと、まあ普通の常識的な規制なのですが、女性、それもポルノなどを毛嫌いしてる方が担当だと、それこそ「?」と言いたくなるくらい厳しかった。
全20ページの漫画に占める「裸のあるコマ」の割合までも言い立てて、規制される。

現状の規制でも、担当者によってこれだけばらつきがあるいい加減な状態と言えるのに、青少年健全育成条例改定案が通ったらどんな混乱が生じるのか、見当もつきません。

一部では、この条例を踏み台とし、国会の法律で“非実在青少年”ポルノを規制することが目標とされているという情報も出ています。その情報がどこまで正しいのかは解りませんが、“非実在青少年”による“児童ポルノ”も完全に規制する法律を国会で作ろうという動きがあるのは事実。そしてその根拠には、上記の(根拠不明で説得力のない)「犯罪に繋がる」という理論の他に「国際的な流れだから」という理論もあります。しかし「国際的な流れ」に常に従わないとならないのなら、日本はとっとと捕鯨を禁止し、死刑制度も廃止すべきでしょう。また自衛隊を軍隊として認め、紛争地域にも積極的に派遣して治安維持のための軍事活動を行わせないとならないでしょう(ドイツだってアフガンに派兵し、軍事活動を行っています)。

そして繰り返しますが、「表現規制」と「(18歳未満への販売などといった)ゾーニング」は全く別の問題です。以前に書いたことですが規制推進派には「子供を守る」という口実の元に、自分にとって気にくわない(自分が見たくない)ものを世の中から抹殺することが目的の人間も多数含まれています。これは「同性愛者は気持ち悪いから規制しろ」と言っているのと何が違うのでしょう。

ところで今回の問題。マンガ家や出版社は連名で反対声明を発表していますが、アニメ/ゲーム関連企業・団体が具体的に声明を出したという情報は見ていません。他人事ではないはずなのに、一体何故でしょう? まだ企業イメージ低下を恐れ「誰が猫に鈴をつけるか」で躊躇しているのでしょうか?
(注 アニメと出版両方の事業を行っている角川書店などは出版社として反対派に回っています。また『聖痕のクェイサー』スタッフが個人名で、反対を主張したという情報もあります)

日本アニメーター演出協会が反対声明を発表していました。