40周年を記念し、映像の4Kリマスター、さらに音声のDolby Atmosリミックス化が行われることになったものの、公開方法が発表されていなかった『天使のたまご』。先日には映像に先駆けてサウンドトラックのUHQCDが発売、ストリーミング配信も開始されておりますが、なんと4Kリマスター版本編がカンヌ国際映画祭にてワールドプレミア公開されると発表されました。
押井守監督「天使のたまご 4Kリマスター」カンヌでワールドプレミア - AV Watch
「天使のたまご 4Kリマスター」が選出されたカンヌ国際映画祭のクラシック部門は、復元された傑作映画や、過去の名作映画の再発見を目的として、押井監督作「イノセンス」がカンヌのコンペティション部門に選出された年でもある、2004年に設立されたもの。
これまで日本映画としては黒沢明監督「七人の侍」の4K修復版や、日本初のカラー長編アニメ映画「白蛇伝」など、映画史にとって重要な作品が上映されてきた部門でもある。
もともと『天使のたまご』はOVAとして1985年に発売されました。当初は「コンビニを舞台にしたドタバタもの」などを想定していたという押井守監督ですが、天野喜孝氏のキャラクターデザインを見て「これはまっとうなファンタジーでやらないと駄目だ」と考えを変え方針転換、その結果誕生したのが本作です。
🎬【押井守&天野喜孝 コメント】
— 天使のたまご / Angel's EGG (@AngelsEgg_anime) May 13, 2025
▼原案・脚本・監督:#押井守
「巧く世の中に出してあげられなかった不憫な娘のような作品です。
これを機会にひとりでも多くの方に見ていただければ、監督としてこれに優る幸せはありません。… https://t.co/Ti4iocpDyy
天野喜孝氏による、複雑で緻密なデザインのキャラクターやメカが動く映像美は評価されたものの、セリフがほとんどないこの作品は娯楽作品と呼べるものではありませんでした。当初から「意味が分からない」とさんざん言われ(押井氏によると極めて単純な物語だそうですが)、『紅い眼鏡』に並んでこのような作品を作った押井氏は「わけのわからないものを作る監督」とされ、その後『機動警察パトレイバー』の成功まで、ほぼ仕事を干された状態だったということです。ゆうきまさみ氏や出渕裕氏も、『パトレイバー』の監督に押井氏を迎えることになったとき「『天使のたまご』みたいなものにされるんじゃ」と最初は警戒したとか(伊藤和典氏らは「この企画ならちゃんと『うる星やつら』みたいなものになる」と安心させようとしたそうですが)。
繰り返しになりますがこの作品の映像美は高く評価されており、それを含めて“傑作”と評価するコアなファンもこびりついていて、DVDだけでなく2013年にはBlu-ray版が発売、オンデマンド配信も定期的に行われております(Prime Videoなどで定期的に公開)。絵コンテ集などの関連書籍も発売されました。
一方北米では、同作の編集権まで売られてしまいました。そのためオリジナルではなく、カール・コルパート監督が新規撮影した実写シークエンスと『天使のたまご』のアニメパートを組み合わせた『In The Aftermath』(1987年公開)という映画として公開されました。ただ、押井守を論じた英語書籍を執筆しているブライアン・ルー氏によると、
コルパートのこの作品は、新撮の実写シークエンスと『天使のたまご』のアニメーションをミックスし、最終戦争後の荒廃した世界を舞台にした新しいストーリーを作り上げたものだ。しかし、アニメーション場面を見るだけでも価値はあるものの、コルパートの作品は粗雑で陳腐な駄作といってよく、オリジナルの『天使のたまご』とは比べものにならない。
とのことです(『押井守論―MEMENTO MORI』より)。
なおフランスのGebeka International社は、『天使のたまご』4Kリマスター版の「世界販売権を獲得(acquired the worldwide sales)」しています。
……と、過去のテキストを引っ張ってきて編集しました。
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