文春オンラインでの押井守インタビュー

「あの事件でスピルバーグは過去の遺物になった」押井守監督が感じた“ハリウッドの破壊者”の限界 | 文春オンライン

そういえば紹介していませんでした。

 当初、ネットフリックスやアマゾンプライムなどの配信会社はクリエイターを尊重してくれる上に、資金もあって予算的にも苦労が少ない……そんなふうに聞いていた。私も何本か企画書を出したのだけれど、ことごとく通らなかったし、そうしているうちに状況も変化していったんだよね。

 こういう状況は、80~90年代のOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)ブームと似ていると思う。最初はオリジナルのストーリーを作らせてくれていたのに、あっという間に人気シリーズのスピンオフなど、鉄板の企画しか通らなくなったんだ。配信もいずれそうなるという危惧があったが、思った以上に早くそうなってしまった。

 しかし、一番の問題はそこではない。作品を配信したあと、反響が聞こえてこないことなんだ。これが作り手にとって最も大きな問題になる。映画やテレビの場合は、動員や興収、視聴率などが反響になるけど、配信はそれがほとんどない。配信会社がデータを公表していないせいもあって、数字がわからないんだ。視聴者は全話観たのか、あるいは途中で止めたのか、それもわからない。つまり、彼らが作品と向き合うときに抱くだろう待望感や失望感、それがほとんど伝わってこないんだよ。これが1話ごとに値段が設定されていればまた違うだろうけど、すべて見放題で月額制だから、ますます待望感も失望感も薄れてしまう。

 ただ、その監督の中に、観客を呼べる者がいるかというと、ほとんどいない。これは実写の世界でも同じことが言える。日本の場合、重要なのは、まず人気のマンガやベストセラー小説の確保、イケメンなどのキャスト、そして最後に監督という順番。ハリウッドでは、まだ「ジェームズ・キャメロン最新作」というふうに監督がウリになる場合があるけど、日本ではまずないし、そういう監督もほぼいない。アニメの場合は、ウリは声優で監督は次の次。監督の名前で映画やアニメを観る時代は終わってしまったんだと思う。映画監督という専門性の根拠がなくなったのが、今の日本。アニメも同じ状況だね。

(スティーブン・)スピルバーグが今年、ネットフリックスをアカデミー協会から締め出そうとしたのは非常に印象的な事件だったね。私はそれを聞いたとき、スピルバーグ自身がすでに時代遅れになった、過去の遺物になったんだと感じた。