舞台劇『鉄人28号』についての個人的感想

こちらに書くのが遅くなりましたが、東京公演最終日、押井守初の舞台劇『鉄人28号』を見てきました。

制作部のひとりごと | 東京から大阪
asahi.com(朝日新聞社):「鉄人」は何を見ても何かを思い出す - 小原篤のアニマゲ丼 - 映画・音楽・芸能

『鉄人28号』ポスター 鉄人カクテルなど

会場では当日券も販売していましたが、席はほぼ満席で盛況だったようです。ロビーの方ではパンフレット(ハードカバーで2000円)やTシャツなどの記念グッズの販売を行っていたほか、鉄人の模型が展示してありました。こちらは商品化を検討しているようです。

鉄人模型 鉄人模型

押井氏はこの舞台を「変な舞台にしたい」と言っておりましたが、私は舞台というものを見るのが初めてだったため、他の舞台に比べて本当に「変な舞台」だったのか、他の舞台と比べて出来がどうなのかは判断できませんでした。ただ、歌が数多く入っていて「ミュージカルっぽい」という印象は抱きましたが、その点が普通の舞台とは違うのかも知れません。

「舞台劇で『鉄人28号』をやる」という企画を聞いた時「舞台劇で、鉄人をどかどか動かして戦わせるわけにはいかない。舞台劇として『鉄人28号』が成立するのか」という疑問を抱いた人もいるでしょう(私もそうでした)。この問いの答えについては正直なところ、未だに私にはわかりません。鉄人マニアでも何でもない私が、この点について判断する資格はないと思います。ですが、舞台の真ん中に常にどんと存在していた鉄人は非常にインパクトと存在感がありましたし、ある意味実写映画版の『鉄人28号』よりも鉄人らしかったのではないかと思います。それに押井氏もどこかで言っていましたが、現代の風景の中に、横山光輝氏のオリジナルデザインの鉄人28号を置いていた実写映画版を見た時は、違和感が拭えませんでした。舞台劇伴では鉄人のデザインを末弥純氏がアレンジしていますが、その鉄人は「東京オリンピック」直前の話を描いた、「現代」の「舞台劇」に登場するものとして、非常にマッチしていたと思います。そしてその鉄人が動くシーンも、ちゃんと大きな見せ場として成立していました。

以下、ネタバレを含む話を。

この舞台劇には野犬狩りの話が出ており、また立喰師“ケツネコロッケのお銀”が登場しています。犬とか立ち喰いという話を聞いて「またか」と思った人もいるかも知れませんが、これは押井氏曰く「舞台として成立させるため」に入れられたものであって、犬と立ち喰いは本題ではありません。舞台の本質は押井氏がかつて監督するはずだったというアニメ『鉄人28号』を踏襲しています(つまり、東京オリンピック開幕式の上空を鉄人が飛ぶことになります)。かつて見ることができたかもしれない押井守のアニメ『鉄人28号』が、舞台劇と形は変えているものの、現実のものになったといっていいでしょう。

野犬狩りは『立喰師列伝』でも描かれていましたが、“経済成長の名の下に、古いものが一掃される”ことの象徴として登場します。ですが『鉄人』では『立喰師列伝』よりも一歩踏み込み「人々の幸せのために、狂犬病を媒介することもある危険な野犬は処分しなければならない。だが野犬は、野犬として生まれたことが罪なのか?」と正太郎に問いかけることになります。それが「純真無垢は、罪である」というキャッチに繋がり、鉄人という絶大な力を与えられた正太郎に、純真無垢でいられないことを強要します。

結果として、この舞台は個人的には非常に楽しむことができました。この舞台の映像が保存されているのかどうかは解りませんが、保存されていなかったら非常に惜しいと言えます。特に、川井憲次氏作曲による歌はかなりのインパクトがあり、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』『イノセンス』で民謡コーラスを担当されていた、西田佳つ美さんの歌までありましたので、サウンドトラックを期待している人も多いでしょう。舞台という性質上、どうしても世間的関心は低くならざるを得ませんが、私としてはこの『鉄人28号』は、押井守を語る上で大きなポイントのひとつであり、記録に残す価値があると思います。

この舞台の大阪公演は2月5日からで、チケットはまだ入手可能のようです。「押井守によるアニメ『鉄人28号』を見てみたかった」と思っている人は、この舞台を見る価値があるでしょう。チケットが高いのが難点ですが……(それだけ豪勢に作られた舞台ということもあるのでしょうけど)。