押井守が『サイボーグ009』の短編3Dアニメを制作

押井守が監督し、プロダクションI.Gが制作した『サイボーグ009』の短編(4分45秒)3D立体視アニメが、10月5日より開催されるCEATEC JAPAN 2010にて公開されると、サイボーグ009公式ファンクラブにて発表された。

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これはCEATEC JAPAN 2010のパナソニックブースにて、押井守監督が創り上げたフルHD解像度の3Dアニメーションと、数々のヒット作を手掛ける音楽家・川井憲次の音楽を、3D立体視・5.1chサラウンドのハイクオリティな映像と音響で上映しますとのこと。文章を見るに、パナソニックの3D上映システムのデモ的なものとして、押井守が『009』の短編映像を制作した模様。「押井守の『009』が長編劇場アニメなどとして公開される」などという点については現在全く触れられていない。

ASCII.jp:CEATEC 2010 パナソニックブースにて「サイボーグ 009」3D映像を初公開~パナソニック技術協力の下、石ノ森章太郎の代表作を押井守とプロダクション I.GがフルHD 3Dアニメーション化~

場面カットを複数掲載。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊 2.0』の影響が大きく出ている感じ。

ちなみに『攻殻機動隊2』(後の『イノセンス』)の企画が上がったとき、同時に『ルパン三世』『南総里見八犬伝』『サイボーグ009』も、押井守による映画化作品の候補として上がっていたという。昔の稚拙な原稿で申し訳ないが、以前私が、同人誌収録用として押井氏にインタビューしたときの文章を引用したい。(以下のインタビューを行ったのは『イノセンス』公開後の2004年で、『009』の映像が制作されるよりもずっと前)

―『009』については、押井さんはアニメ化することに結構興味があったそうですが。

押井 それは昔、遥か昔(笑)。冷戦が終結する前の話。「冷戦後の世界であれ(『009』)をやること自体意味あるんだろうか」というとさ、間違いなく『009』は冷戦の産物だから。あれはだって国連の話だよ。武装する国連の話。中国からフランスから日本からアメリカから、国籍の違う人間がギルモア博士を入れて10人で(集まって)、共通の目的に向かう。それで敵が何かといったら軍産複合体。多国籍企業と言っても良いけど。あれって今冷静に考えれば、「国連というふうなものに結集することで、多国籍企業とかそういったものに対抗して、国民国家が“国家”っていう枠組みの中で、どういうふうに生き延びるか」という話でさ。思いっきり逆なんだよ。あれはたまたま多国籍企業とか、国家を超えるものの存在を悪と仮定しただけで、その逆に考えることもできるんだよ。「ブラックゴースト(敵の秘密組織)が正義の団体だったらどうするんだろう、あれが(反政府)革命党だったらどうなるんだろう」って。それで言ったら(『009』は)冷戦の思想の産物なんであって、その枠組みが変わっちゃった今の時代に(『009』を)やってどうするんだろうって。
 原作では、アメリカ人である002がヴェトナムに行くって話もあったけどさ。あいつとイギリス人の007が「アメリカはこんなことをやってたのか」ってケンカするとかさ。でも基本的にはあれは、言ってみれば国連主導から逆に「国家を温存しよう」っていう話だよ。国家を超越するものが悪になっちゃったんだから。
 でも国家を超越するものが悪であるわけがないじゃない。国家廃絶を目指すものといったら、取り敢えず今は多国籍企業とかイスラム原理主義とかいうことになっちゃうけど、かつては革命党だったの。そういうことを今やってどうするんだということは直ちに判るわけであって、一応、改めて原作を読み直してそう思ったんだけど。原作の中断するところまでは全部読んだよ。中学生の時に読んで以来だから、30何年ぶりに読んだわけだけどさ、「やっぱそういうふうなもんだったんだなあ」って。そういうことでいうと石ノ森章太郎っていう作家は基本的にその思想の中で生きた人なんだよ。『仮面ライダー』だろうが『にいちゃん戦車』だろうがみんな同じだよ。その時代の産物なんで。だから「世界の枠組みが変わっちゃった中で、どうやったら『009』を映画にしたら良いんだ」って。
「こうやったら映画にできるのかな」って一通り考えたよ一応。結論としては駄目だよ(笑)。別にやりたくないから断ったというんじゃなくて、僕は来た企画は一応全部検討するわけ。「どうやったら映画化可能になるか」、「どうやったら映画として作る値打ちがあるか」って。自分自身の訓練も兼ねて、必ずそうすることを自分自身に課しているんだよ。どんなアホらしい企画であっても、一通りは必ずシミュレーションする、「本当に可能かどうか考えてみよう」って。例えば、「人が集まったはいいけど結局機能しない企画だろう」とか、「内輪で自滅する企画だよ」とかいうことの幅まで含めて。駄目なんだよやっぱ、そこまで苦労してやるんだったら(『009』を映画化する)意味ないでしょうって。

このインタビューを読み返すと、押井氏がそうとうの心変わりをしたのでない限り、『009』の長編映画化は見込めそうにないようだが。