『BANGER!!!』の押井守特集記事

押井守「映画は一期一会じゃない、再会するもの」(1/3)

押井守「トリュフォーの言ってたことはウソじゃなかったけど、いちばん肝心なことも言ってなかった(笑)」(2/3)

押井守「『ブレードランナー』っていう映画の門をくぐらないわけにはいかない」(3/3)

『BANGER!!!』の押井守インタビューが3つ全部掲載されたので改めて紹介。幼少の頃からの押井氏の映画体験が色々と語られています。

裏切られたっていうか……逆ですよね。僕なんか、学生のころから自分の想像を裏切るような映画を観たいと思ってきたから、良いほうに変わっちゃったっていうかね。期待を裏切られたけど、実はそっちのほうが良かったっていう。裏切るっていったって色々あるんだっていうかね。想像した映画と違ってました、だけど意外に面白かったでしょ? っていう。基本的にそういうスタンスで作ってきた。いつもそう言われてきた。それは「ビューティフル・ドリーマー」だったり「パト2(※『機動警察パトレイバー2 the Movie』1993年)」だったりとかね。

『2001年宇宙の旅』(1968年)は、SF作家になりたくてしょうがなかった頃に観た映画。SF映画を作りたいっていうんじゃなくて、「SFで一生いきたい」と思ったわけ。高校生だったからね。当時は“シネラマ”って言ってたんだよね、70ミリ映画。スクリーンが横に倍あるんですよ、異様に横長の世界。はっきり言って当時の70ミリ映画っていうのは、ドラマがどうこうじゃなくて単純に“見世物”だったんですよ、当時の認識は。

確か東京ではテアトル東京でしか上映してなかったと思うんだけど、そこに観に行った。当時はもちろんSFの知識があったから、アーサー・C・クラークももちろん読んでた。(スタンリー・)キューブリックは知らなかった(笑)。で、封切になってすぐ行ったんですよ。映画館の前にモノリスが立ってましたからね。

かなり前のほうの席で観たので、首がね……スクリーンが大湾曲してて。宇宙船がね、しなってるんですよ(笑)。だからまともな映画観賞っていう感じじゃないんですけど、感動したの。めちゃくちゃ感動した。脳天に一発食らったっていう、痺れて立てないくらいだった。

「『ブレードランナー』って映画はすごい映画だ」って言って、じゃあどういうストーリーだったか覚えてる? って聞くと、たぶん覚えてる人はそんなにいない(笑)。まあ色んなパターンがあったしね バージョン違いとか。それにしたって、どんな映画か語れる人は滅多にいないと思った。でも、みんな打ちのめされたんですよ、特に映画の好きな人間にとっては。

ハリソン・フォードとかショーン・ヤング、ルトガー・ハウアーが好きだろうが嫌いだろうが関係ないですよ。サー(リドリー・スコット)の名前を知らなくたって構わない。「なんかすごいもの観ちゃった」っていうさ。架空の未来の街をこれだけ生々しく、アクチュアルに表現した映画ってあったんだろうか? って。この後に「近未来でSFだ!」っていう世界を描こうと思ったら、もう『ブレードランナー』っていう映画の門をくぐらないわけにはいかないんですよ、これはゲートなんですよ。

『ブレードランナー 2049』(2017年)の監督(ドゥニ・ヴィルヌーヴ)は本当に素晴らしいね。『メッセージ』(2016年)もすごかったけど、『ブレードランナー 2049』は久々に痺れた。エンディングが終わっても、しばらく立つ気にならなかったもん。あの“時間”が素晴らしいね、映画でしか体験できないもの。まったりしてるんだけどスカスカじゃないんですよ。濃密で、中身がいっぱい詰まってるんだよね。あの時間って、あの監督のものなんですよ。