特別企画「なんだか色々と聞いてきました」第3回 アニメ作品のBD化技術についても色々聞いてみよう

前回に引き続いて、特別連載企画の3回目。一通り『攻殻』がらみの話が終わったところで、せっかくさまざまなアニメ作品(だけとは限らないが)をBD化してきたソニーPCLの人たちがいるのだから、他にもBD化技術について色々と聞いてみた。

インターレースとプログレッシブ

BDのパッケージ裏を見たとき、1080iとか1080pと書かれているのを見ることがあるだろう。iとはインターレースのことで、pとはプログレッシブのことである。

インターレースについての話をすると長くなるので省略するが、最近のTVアニメのBDは1080i(インターレース)のものが多く、一部は1080p(プログレッシブ)である。誤解される危険を承知の上で大ざっぱに書くと、1080iよりも1080pのほうが画質が良い。「だったらBDに収録するなら1080pにしてくれよ」と思いたくなる。だがTV放送はインターレース(i)でないと行えないため、マスターをプログレッシブ(p)として制作すると、TV放送時にインターレースに変換しなければならない。更にインターレースとプログレッシブでは1コマあたりの秒数がほんのわずかだが異なるため、インターレースに変換したあと、TVの放送時間に収まるよう尺の修正まで必要になってしまう。

そのため「BDにしたときの画質を優先」するなら1080pとして制作するべきだろうが、「放送を基準とするか」「そこまでしてプログレッシブにしてもインターレースとの差が出せるか」「費用対効果」などを考慮した結果、1080iとして制作することが多いようである。

なお『攻殻S.A.C.』シリーズのBDは『Solid State Society』(『攻殻機動隊S.A.C. TRILOGY BOX』収録)のみ1080pで、その他はすべて1080iである。これは『Solid State Society』はOVAとして制作された(放送を前提としていなかった)ためプログレッシブとして制作され、その他はTV放送を前提としたためインターレースになったとのことである。

SDデジタル作品をBD化する場合

以前杉山氏がプロデュースした『戦闘妖精雪風』は、SDで制作したものをアップコンバートしBDにして発売している。だが元々『雪風』は、60i(60コマインターレース)になっているものを24p(24コマプログレッシブ)に変換した状態になっている。そのため場面によって、縞状のノイズが画面に現れる(インターレースとプログレッシブの表示方法の違いが原因で発生する)ことがあったため、手作業でチェックしていかなければならず大変だったとか。『戦闘妖精雪風』の記事については以下の記事が詳しい。

BDで美しく甦る『戦闘妖精雪風』の世界

この『雪風』のほか、初めてTVシリーズアニメ作品をBDとして発売した『AIR』などは、SDデジタル作品をアップコンバートしたものである。

買っとけ! Blu-ray 第233回:ついに京都アニメーションのHDソフトが手中に! アプコンだけど大丈夫?「AIR Blu-ray Disc BOX」

だが実際には、意外とSDデジタル作品をBDで発売するケースは少ないそうである。ともあれSDデジタル作品をアップコンバートする場合、2つのパターンがある。1つは、SDサイズのCGデータをリサイズ(アップコンバート)してHDにするケース。もう1つは、SDのテープになっているものをアップコンバートするケースである。前者の場合は、ファイルベースでデジタル補完技術を行ってHD化し、後者の場合は、アップコンバータという機械を通してHD化している。これらの技術は日進月歩で向上し、HD化したときの画質もより向上しているというが、さすがに元からHDの映像の画質にはかなわない。

フィルム作品をBD化する場合

では、元がフィルムの作品をBDにする場合はどうだろう? 「フィルムの解像度は無限」とはよくいうのでアップコンバートは考えなくて良いが、特に古いフィルムには傷やゴミがつきものである。そして、現在のデジタルアニメに慣れた人々は、アニメの映像にキズゴミがあると違和感を受けてしまう(かつてのビデオ化されたアニメは、セル画のキズなどが画面で確認できたケースもあったが、現在のデジタルアニメではそんなことは起こりえない)。そこで画面に現れるキズやゴミをデジタル技術で消す作業が必要になってくる。

またフィルムの場合、フィルムの粒子というものが出てくるわけだが、「フィルムの質感をうまく表現している良い粒子」はあったほうが良い。だが「高感度フィルムなどを使ったせいで、余計に出てしまった悪い粒子」は取るべきである。なんだか「善玉菌と悪玉菌」みたいな話になってきたが、とにかく制作者の狙いにあわせて「良い粒子」と「悪い粒子」を判別して残す、あるいは軽減するというのが、フィルムのBD化で苦労するところだという。

また、フィルムを1コマずつデジタルに取り込んでいくとき、上下左右の位置がぶれてしまって画面ががたつく(揺れる)可能性があるため、これを防ぐ処理にも手間がかかるという。

画郭はどうするのか?

あと古いSDマスターは画郭が4:3になっていることが多い。だが知っての通り、BD/DVDの標準であるビスタサイズは16:9。BDにする場合、左右を黒で潰して4:3の画像として入れるか、上下を切って16:9に変換してしまうかの選択を迫られる。アニメでは、左右を黒くし4:3のソフトとして発売しているものがほとんどだが、稀に上下を切り16:9の映像としてソフトにするケースもある。

通常のプレイヤーは、4:3の画像をプレイヤー側で上下カットして16:9にズームする機能がついているため、4:3にしておいたほうがユーザーに選択を任せられる。だがこの場合ズームはプレイヤー処理になるため、最初から16:9としてソフトを作るよりも画質が落ちるだろう。それに制作者からすると、場面ごとに上下のどこをどの割合でカットするのか決められない。そう考えると4:3として作るべきか16:9にすべきか、難しい選択である。(参考 16:9の画面の意味

特別企画 次回「アニメBD/DVDマーケティングの話も聞いてみましょう」へ続く。