野良犬の塒
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東京国際映画祭2004 東京アニメ映画祭

2004年に開催された東京国際映画祭。こちらでは“東京アニメ映画祭”として、TVシリーズから派生した複数の劇場アニメ作品の上映が行なわれた。その中で『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』の上映もあり、上映終了後は押井氏のトークショーが行なわれた。以下にその模様を紹介する。

──当時を振り返って押井監督はどのように思われますか?
押井「偉く昔の話なので若かったと思いますよ(笑)。これをやって、映画監督としてやっていけるだろうかと、自分としてはそういうつもりで作って。これで駄目だったら止めるというか、次を作らしてくれないだろうなと、覚悟を決めてやった作品の一つです」

──押井監督は実写映画も作られていますが、アニメと実写の違いはどこにあるのでしょう?
押井「色んなところで聞かれたんですけど、基本的な違いはないと思います。映画は映画なんであって、頭の中に映画の企画があって、(実写とアニメの)どちらでやった方がインパクトがあるかとか楽しそうかとか、そういうところで分けているだけで。実際の作業は全然違う、動画の使い方から脳味噌の使い方まで違うけど、映画としての違いは基本的にないと思います」

──日本のアニメは、どうして海外で高い評価を受けていると思われますか?
押井「日本だけじゃなくて向こう(海外)でも良く聞かれるんですけど、日本でもよく判らないし向こうでもよく判らないと答えるんですけど、ヨーロッパの雑誌記者も日本の新聞記者とかもなぜだときいてくるけど、僕に聞かれても困るんですよ。『攻殻』から10年たって、あの映画がヒットした理由というのはようやく判った気がします。日本のアニメーションが何故海外で受けるかというのはよく判らないというか、一応察しはつくけど、それを喋るととても終わらないので(笑)」

──では『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』はどうしてヒットしたのでしょう?
押井「今日(『ビューティフル・ドリーマー』を)ご覧になった方はプリントの状態はどうでした? 綺麗でした? 東宝さんが今回のために新しくプリントを焼いたとは思えないのでストックのプリントだと思うんですけど(笑)、僕はあるアメリカの上映会で『攻殻』を見た時に、全編雨の嵐で、 少しプリントがぶつぶつ飛んでいるんですよ。要するに、全米で出回っている『攻殻機動隊』のプリントって2枚しかないんです。その2本のプリントで全米中をずっとまわっているんです。どういう事かというと、綺麗な画面を見るにはビデオを買うしかないわけですよね。要するにそういうことなんですよ。向こうでロードショウ館で、100館とか200館とか、メジャーなロードショーでお客さんが一杯入ったという現象とはは関係ないんですよ。要するにアンダーグラウンド、カルトなんです。評判になったことは多分間違いない、色んな新聞とか雑誌とか、人間が色んなことを書いたのは間違いない、ただそのわりには見る機会がなかった、だってプリントが2枚しかなかったから。だから必然的にDVDが売れたんです。こういう仕掛けなんだということが、今回『イノセンス』でドリームワークスという会社に行ったときにやっと判った。『イノセンス』は行った瞬間、上映の2、3週間前だったかな、プリントが50本完成していて、しかもそのプリントにミスが発見されたので、急遽また50本焼いているという、そういう状況だったんですよ。だから全然状況が違う。映画が一種の評判になるとかいうのはそういう部分があるんですよ。興行するというか、映画がどのような形で世に出るかでかなり運命が分かれてくる。あの映画がもし仮に、ありえなんだけど50館とか100館とかもっとたくさんでロードショーされていれば、もしかしたら一週間で打ちきられていたかもしれない、したがってDVDも売れないという。
そういう風なことは多分にあると思います。それ以外のことに関していえば作品の力が決めるんであって、10年立ってもまだプリント焼こうとかいう興行者が現われるとか、また焼き直してDVDにしようとかリミックスしようとか。リミックスという話も恐らくあるんだけど、そういうふうなことがあるとすれば、その作品の持っている力でしょう。初動というか公開したときにどうなるか、最初のビデオがどれくらい売れたかというのは映画の本質とはあんまり関係ないところで、ある種のタイミングで決まってしまうんです」

──監督としては、今後ディジタルをどう映画に取り入れていこうとしているんですか?
押井「ディジタルをどう使うかという感じではなくなっちゃったんです。他に選択肢がないわけだから。アニメで言えば、作画は手で描くんですけど、その作画に色を付ける段階から、合成する撮影するまでデジタルでやる以外に選択肢がないんです。実際に撮影台がほとんど残ってないわけで。一方で実写の世界でも、35ミリのでかいカメラを現場で振り回す余地がほとんどなくなっているんですよ。大体みんなDV撮りで、ディジタルで編集して最後にフィルムに出力する、あるいはディジタルのままHDから上映する。現実的にそういう選択肢しか残っていないんです。何故ならその方が安いから。その方が安いし簡単だし、そのお陰で2000万円3000万円の規模で映画が撮れるようになったという良さがあるんですよ。いずれにせよ、光学の世界とかフィルムの世界ではどんどんなくなっていくのは必然なわけで、ディジタルをどう使っていくのかという話ではなくて、ディジタルの上に何を築くのかという話にしかならないと思います」

──(質疑応答)『ビューティフル・ドリーマー』に登場する、豚のおしりに書いてある©の意味は何ですか?
押井©ってのは著作権を許諾したという証拠のマークなんですよ。映画の終わりにも必ず出てきますけど、ガンダムの足の裏にも書いてますよね。ああいうふうなもので、これは正規の著作権を承認した商品であるという証拠で、本来ならその隣に“押井守”とか、宮さん(宮崎駿)だったら“二馬力”とか、まあ著作権をクリアした商品だよという。なぜあの豚というかバクに書いてあるのかというと、当時も色々聞かれたんだけど、最近さすがに誰も言わなくなった(笑)。久しぶりに聞かれたんですけど、あれはいたずらといえばいたずらです。昔のアニメーションってそういういたずらだらけだったんですよ。そういうことやってもあんまり怒られなかったから、誰もそんな事気にしていなかったから。オンエアされたTVシリーズでも、どこかで見たキャラがぞろぞろ出てきて、いまやったら裁判沙汰になるようなものが平気で流れていたんですよ。
それのひとつと考えて貰ってもいいし、あの当時の気分ですね。この子豚に見えるバクくらいしか可愛いものが出てこないと言われたわけ、この映画では。商品化するものが何かないかと言われたんですよ。この映画のオリジナルの商品化できそうなキャラクターが。だから『豚はどうですか?』と。あれ可愛いから、あの豚でぬいぐるみ作ったりすればいいじゃないですかと。けっきょく実現しなかったんだけど、というか『うる星やつら』というシリーズ自体、フィギュアが出たりとかメカのプラモデルが出たりとかほとんどしなかったんですよ。めずらしい作品なんで、何とかしようとしたんだけど出なかったし、出たとしてもほとんど売れなかったし。それが当時流行ったガンダムとかマクロスとかとの根本的な違いだったの。『うる星やつら』って物が売れなかったんです。売れたのはビデオと漫画だけ。漫画が売れたからこれ(アニメ)が出来たんだけど、そういう意味で言えば、当時の製作者の『商品化したい』というプレッシャーが絶えずあったわけ、僕の後ろで。何か出せとしょっちゅう言われていた。
僕も不思議なんだけど、『パトレイバー』もそうだけど僕の作品は商品化に結びつかないんですよ。未だかつて僕の作品でプラモデルが売れたとか縫いぐるみが売れたとか一回もないわけ、一回もだよ。『パトレイバー』といえどもガンダムの千分の一とか万分の一とかで、大して売れてない。僕自身の、『そういうえばこれが売れたらいいな』って。『イノセンス』だって商品化目論んだんだけど。人形を、球体関節の。売れるんじゃないかっていって誰も作ってくれなかったんだけど(笑)。その作ってくれなかった恨みがドールボックスになったわけ。どうしてもあの人形作りたいっていって。だから当時としてはそういう思いがあったの。今覚えば『馬鹿なことをしたな』と(笑)。ああいういたずらは後になって恥ずかしい思いをするという(笑)、若気の至りということです」

──(質疑応答)押井監督の新作は何になるのでしょうか?
押井「今現在は愛知万博の仕事をしていますね。多分(2005年)1月一杯まで。そろそろ追い込みで、川井(憲次)君と音楽のミックスをやっているところです。今日も朝8時までやっていました(注:このトークショーは1300時頃開催)。だから今日もバッくれちゃおうかと思っていたんだけど(笑)。しらばっくれて寝ようかと思ったんですけど、担当のI.Gの広報の黒澤というのがいるんですけど、あいつの泣いている顔が思い浮かんだから(笑)。しょっちゅうあんパン買ってくれたりするんで(笑)。しょうがないから起きてきたんですよね。でもぎりぎりで、だいぶ黒澤は冷や汗かいてたけど。
今はそれをやっていて忙しいと言えば忙しいです。来年はぼちぼち仕事決まりつつありますよ、というか幾つか決まっちゃいました。そのうち発表になると思うけど、来年は短編みたいなのを幾つかやります。ビデオシリーズとか、映画もあるにはあるんですけど。どういう事かというとすごく安いやつ、それをやります。ビデオが6本で、それを編集して映画を作るという、一番お得な方法論で。昔『御先祖』ってね、あの方法論で、ビデオ6本と映画1本で、安い仕事でそのかわり何やってもいいという楽しい仕事をやろうと思ってます。あとこれも近々発表になると思うけど、I.Gが雑誌を出すんですよ。それの仕事も手伝ってます。多分また(『犬狼伝説』の作画を担当した)藤原カムイという漫画家と組んで連載を始める予定です。それはもしうまくいけば3年後くらいにそれを原作にしたアニメを作りたいと思ってます。今やっているのはそんなものです。
『イノセンス』みたいな仕事は当分嫌だというか、3年後くらいになったら考えます。というかできないですね。僕は本当はうちにいて犬の相手していなければならないはずなんですよ。愛知万博もうっかり引き受けちゃったというか。だから仕事好きなんですね。来年の仕事は決まっちゃってます。タイトルは敢えて言いませんが楽しい作品になると思います。楽しいのは僕だけかもしれませんけど。中身はですね、蕎麦関係ですね(笑)。そっちの方面の映画です」

──最後に、仕事とは関係なく、好きな作品を作れるとしたらどのようなものを作りたいですか?
押井「基本的に好きな作品しか作ってこなかったので、あんまり自分で『これをどうしても作りたい』というのは無いんですよ。来た仕事の中で好きなのを作りたいという。無制限にお金があったらどんな映画を作るかということは良く言われるけど、映画監督ってそういうふうに考えないんじゃないかと思います。その時々の中で仕事をする醍醐味がわかっちゃったので。巨大な自主映画みたいなのは出来ないというか。敢えて言うなら6年ぐらいまえに轟沈しちゃった企画があるんですけど、『ガルム』っていう。それを多分やるでしょう。あらゆるものを無視してやっていいというのであれば(笑)。40億とかそれくらいあればできる。40億といってもアメリカで言えばB級になっちゃうわけだから。日本で言えば大変なお金だけど。もしやってみたいとすればそういう企画がありますね」

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