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日本アニメーション特集 月刊ニュータイプ Selections Animation Odyssey 2003 ~検証! 監督たちの劇場デビュー作~

左から二番目が押井氏、その右が安濃氏東京国際映画祭で、11月6日の日本アニメーション特集 月刊ニュータイプ Selections Animation Odyssey 2003 ~検証! 監督たちの劇場デビュー作~のリポートを掲載する。ここではうる星やつら オンリー・ユーが上映され、その後ゲストとして押井氏と、演出を担当した安濃高志氏が登場した。

押井「アニメーション特有の制度なんだけど、絵コンテとか音響とかポストプロダクションは監督がやって、原画チェックとか撮出しは演出家がやります。突発自体があったら監督と脚本が相談とか。二人三脚で作っていく感じですね。演出が二人いる場合もあって、現場の責任者が演出で、作品全体の責任者がが監督です。なぜそういうふうになっているかというと、アニメの現場はやることが多いから。フィルムだけに関わっていると会議とかに出られないから、分担するようにしたんですね。いつ頃からやっているのか判らないけど。東映とかでは助監督という制度があったんです、今もあるのかな? 記録の人までいたし。他のスタジオでは監督と演出。シリーズ物で、監督がいて各話の演出がいてという感じに近いですね。宮さん(宮崎駿)みたいに、演出を置かないで演出助手を置いている場合もあるんだけど。宮さんは原画チェックとか自分でやっちゃうから。演出助手は何をやっているかというとシートチェックとか撮出しですね。監督と演出家のコンビで一つの作品を作っている。わかりやすく言うと、いやわかりやすくないかもしれないけど野戦指揮官と参謀長みたいな感じです(笑)。監督が戦場で陣頭指揮できないので、具体的な現場での作戦の発動をするのが演出家。演出家の報告を聞いて全体の作戦を考えるのは監督。これでわかる人は何人もいないけど(笑)」

押井「僕の前に前任者として偉い監督さんが半年くらい作業していたんですが、『出来ないから辞める』って辞めちゃったんです。それでスタジオの社長の布川(ゆうじ)さんから僕に『やっぱりおまえがやってくれ』と。でも僕は嫌だといったんです。最初から自分にやらせてくれていればこういう最悪の事態にはならなかったのに、途中から交代してくれというのは虫が良すぎる、こういう形で自分の映画を始めたくないと。すると僕の師匠である鳥海(永行)さんという人に、鍋を食べに連れて行かれて説得されたんですよ。うる星やつらという作品がかわいければやれと。このままほっておけば、どこの馬の骨とも判らない監督がめちゃくちゃにやっちゃうよと。おまえがやるべきだとやることになったんですよ。それで僕もやる事にして、安濃さんとか声かけたりとか走り回って。既に制作期間を半分無駄に過ごしていたので、コンテ切りながら作画打ち合わせとかやってました。だから最終的な総尺が判らないので、最終的には40分近くオーバーしていることが判明して。でも絵は同時に上がってきているので、それを欠番出して。カットしたところで、フィルムになっていたのは頭のアバンタイトルのところだけですね。森本(晃司)が原画をやっているところで、最初それで行くつもりだったけど、主題歌も入れなきゃならないし、子供時代の回想シーンも必要だというので、本来入れるはずだった森本のオープニングを外すことになったんです。劇場公開1年後くらいに、劇場公開版にカットされたシーンをさらに付け足した「ディレクターズカット」と称する全尺版を作ったんです。その時は安濃さんはいなくて、僕とプロデューサーの久保(真)という男と二人でカッティングして、ラボに行って試写という、非常に寂しいものだったんですが(笑)。ディレクターズカットというよりはプロデューサーズカット(笑)。試写が終わった後久保と話して、「やっぱり(このシーン)いらないよな」って(笑)。長すぎて座っている尻が痛くなると。だから森本には申し訳ないけど、相対的には劇場公開版の長さの方がいい。アバンタイトルの出来としては森本のほうがいいけど、トータルで言うと劇場公開版の尺がいいという気がしています」

安濃「押井ちゃんと一番最初に会ったのは20台半ばくらいの時ですね。押井ちゃんのコンテは読むだけで笑えた。ヤッターマンの時とかは仲間内では、よく押井ちゃんのコンテを漫画代わりに読んでた(笑)。押井ちゃんはその時に一緒にメシ食ったことがあるくらいで、一緒に仕事をするのはこれが初めてです。それからオンリー・ユーに関しては俺の方が先に現場にいたんです。偉い人たちに呼ばれて行って、偉い人たちがいなくなって一人取り残された感じですね。5ヶ月くらいで一本映画を作ってしまわないとならないから、押井ちゃんも色塗ってたし(笑)」
押井「5ヶ月というのは物凄く短いように思うけど、当時は映画作るのに1年かけるということはなかったですからね、だいたい8ヶ月くらいで作ってました。それを考えるとオンリー・ユーはスタートは早かったんだけど。それでもやっぱり5ヶ月は短いなと。考える暇もない。ダビングの時も色がなかったし。ダビングしながら原画チェックしていた記憶があります。形になれば何でもOKみたいな。フィルムが上がってから公開までは1月なかったと思う。初号は公開の2週間前くらいだったかな。初号の前に零号試写という、監督とか演出とか数人で見るものがあるんだけど 。オンリー・ユーの時は監督の僕だって絵が埋まった状態で見るの初めてですからね。ダビングの時だってシロミ線録りたくさんで、当然アフレコは真っ白。安濃さんの頭の中にしか完成品がないんだから。それで安濃さんと見て、二人ともがっかりした、だめだこれはと(笑)。その足で吉祥寺に飲みに行ったんだけど」
安濃「押井ちゃん、寿司食えない(笑)」
押井「安濃さんが牡蠣の大皿取って、僕は卵焼き(笑)。飲み始めて、僕は疲れていたのもあってすぐ潰れたんだけど、安濃さんは延々と飲んでた(笑)。僕はその後の記憶がない。初号当日は遅刻した記憶がありますね、起きれなくて。監督来ないうちに初号が始まってる(笑)。最後までどたばたしてました。公開前から真っ暗に落ち込んでいた、最悪のデビューに近い(笑)。いい記憶はほとんどない。女の子とか家に帰れない。2週間とか3週間とか泊まっているから、体臭とかがこもってくるんです。みんな床に寝てるし。あれが一番しんどかった。これやりながらTVシリーズ続いていたから。このあとの1年間は本当に濃い時間で。うる星の監督になったのが30前くらいかな、オンリー・ユーをやったときは多分31くらい、元気盛りだから出来てたんですね。現場は安濃さんが最年長だったと思う。山下(将仁)とか10代もいたから。彼はシリーズからぶっこ抜いてメカ作監にしたんですね、どうしようもなかった。2ヶ月くらいでメカやれと。それくらいハードだった。あのころは若かったなと思いますね。
安濃「俺はああいう現場結構あったけど(笑)。やっぱ一番きつかったのは押井ちゃんだと思いますね。やりたいことができないだろうと思ったんだけど。あるところまでで決まっている上からやらざるを得ない。ストレスとかスケジュールが間に合うかとか。現場は目の前にあるものを消化して行くだけだから」
押井「結局交代して入ったときに何もなかった。ほとんど何もなかった。原作者(高橋留美子)が描いたエルというキャラクターがあって、宇宙船みたいなのが2~3枚あって、そんだけ。コンテも2~3ページしかできていないから、好き勝手やれる状態ではあった。だけどエルと脚本は決まっている。設定は後から勝手に作って、人物も好き勝手に作ったんだけど。脚本もどこまで弄っていいかわからなかったけど、時間無いからどんどんコンテ切って、脚本を大幅に変えた。すぐ問題(笑)。東京タワーの近くのレストランでプロデューサーが間に入って脚本家 (金春智子)と協議を図ったんです、妥協する余地はないのかと。結局どうにもならなかった(笑)。僕のコンテで行かないとできないから。脚本家はいまだに怒ってる、 僕も怒ってるけど(笑)。脚本は初稿しかなくて、はっきりいって良くない。うる星やつらのキャラクター総出演みたいな感じになっていて、キャラクターが出てくるのはいいけど、出てきた後の後始末が書いてない。これはまずいだろうと、全体いじらざるを得なかった。キャラクターの解釈が違ってたというのもあるし(*1)。不思議な事に原作者はオンリー・ユーを気に入っていた。5本ある映画の中で、今でも一番お気に入り(*2)2本目が一番嫌い(笑)。そういうようなことはやっぱりあるんだなと。僕も原作物やるのはしんどいというかすっかり嫌いになって、二度とやるかと思ったんだけど(笑)(*3)
安濃「(押井氏と高橋氏が)二人で話しているのを後ろから見るとそっくり(笑)」
押井「高橋留美子と僕の印象がよく似ているらしいんですね、兄妹みたいだと。冗談じゃないと(笑)。二人ともかなり怒ってた。初号の後、原作者の言葉をいただく儀式というのがあるんです、監督にとって裁判みたいな席なんですが。オンリー・ユーの後原作者が何を言ったか覚えてないけど、2本目は凄かった。『人間性の違いです』ってその一言言って帰っちゃった(笑)。これは自分の作品じゃないと言いたかったんですね、そうなのかもしれないけど。オンリー・ユーの初号の後覚えているのは、鳥海さんが開口一番『元気があって良かった!』って言ってくれたんです。誰もこの映画に自信がなかったんですね、東宝の関係者も含めて、これで公開していいのかと。だけど開口一番断定的に言われると、その意見がその場を支配するんですね。この時は師匠って本当に有り難いと思いましたね、物凄く感謝してます。TVシリーズの1話の時も鳥さんが、座ったとたんに『良かった!』って言ってくれて。すると他の人はあんまり意見言えなくなる(笑)。映画ってものは主観的なものなので、初号見たときと翌日見たときは全然印象が違うんですね、客観的な判断は誰にもできない。誰かが『まずい』と言うと連鎖反応起こしてまずい雰囲気になってしまうし、シリーズだと方向修正しなきゃという話になって、監督にとって最悪の状況になってしまう。こういうところが映画が肝なんだって思いましたね。ケンカしても駄目なんだって。デビュー作としては学ぶ部分が多かったですね。この映画に支配されたところもあります。封切ったらお客さんはけっこう来たし、製作会社的にはもっと来る筈だと考えていたんですが、僕は内心いじけていた(笑)。復讐戦やらなきゃ気が済まないと。これがなきゃパート2はあそこまで開き直れなかったですね、映画にすることが第一優先でそうしないと映画にならないと確信したから」
押井「TVシリーズのあたるのお母さんの夢(第102話『みじめ! 愛とさすらいの母!?』)は、フジテレビに納品拒否されたから(笑)。結局納めたんだけど、間に合わないからって。この時は社長室にいきなり呼ばれて、結構絞られました。『どうするつもりなんだ』って。僕はひどいものつくったとは思ってなかったですね。あたるの母で一本つくりたいと思って。現場は面白がってノリノリだったんですが。2本目の映画に入ったとき、『ああいう話はやめてくれ』と真っ先に言われたんだけど、そうなっちゃった(笑)。まさにそれやろうと思っていたから、僕は『はあはあ』と適当に答えてました(笑)」
押井「実はオンリー・ユーとビューティフル・ドリーマーの間に1本劇場を作ろうとして、伊藤君が脚本ホンまで上げた話があるんですよ。あたる達で映画を作る、メイキングみたいな話。高校生が映画作りながら、ラムとしのぶで恋の鞘当てするとかいうやつ。この脚本は原作者も結構気に入ったんですが。でもスケジュール的に無理だから『やっぱりやめよう』って僕が言い出したんです。僕も少しは利口になってたから(笑)。夏くらいにはやるといっていたから、3ヶ月くらいで作るという話だったのかな、さすがに無茶、やっぱり止めましょうと。製作会社激怒して。日本映画界から追放してやるとまで言われました(笑)。脚本まであげちゃったから、色気はあったんですね。そこで冷静にならないとと我を取り戻した。これで原作者と更にこじれたんだけど(笑)。だから(『うる星やつら』TVシリーズのチーフディレクターを)辞めるための準備は着々としていたんですね(笑)。伊藤君のやった『魔法の天使クリィミーマミ ロンググッドバイ』って実はあれだったんです(伊藤和典公式HPの記述)。伊藤君も、転んでもただでは起きない男だから(笑)(*4)
押井「ビューティフル・ドリーマーの脚本の時は(原作者やプロデューサーが)チェックしないで投げてたから(笑)。僕が脚本に駄目出しして潰していて、時間が無くなってきて『なんでもいいから出してくれ』と言われたので。それを待っていた(笑)。『脚本家書く暇無いからコンテから入ります』と言ったんだけど、あれ脚本から出したら誰も許さない(笑)。映画とはこうやって獲得していくものなんだって、貴重な経験しましたね。映画って仕掛けたときから監督の勝負は始まっているんだなと。デビュー作は成功することが大事ではない、デビューで大事なのは映画の何たるかを掴むかということで、成功しても浮かれるな、敗しても落ち込むなといつも若い人に言っているんだけど。監督は二本目が勝負ですね」
安濃「オンリー・ユーは自分で作ったという感覚はあまりないですね。余計な事は考えなかったから。取り敢えず上げるためにどうするかと。押井さんには、やりたいことをどうやるかというのを見せてもらったけど(笑)」
押井「安濃さんは脚本も書いているんだよね。脚本家がみんな引き上げちゃって、伊藤君しかいなかったから。伊藤君5本、僕3本とか割り振りして。中身に関しては打ち合わせしなかった(笑)。TVシリーズ2年目はやりたい放題に近くなってて、楽しかったですね」
安濃「僕は最初は外から見てたけど、最初からやりたいことやっているんじゃないかと思ったけど(笑)」
押井「金庫の話(第123話『大金庫! 決死のサバイバル!!』)とか安濃さん書いてたね。あたると面堂しか出てこない話」
安濃「あれは、予算の関係で2人だけしか出てない(笑)」
押井「今でも面白いと思うね。ああいうのはシリーズにしかできない、それがシリーズの面白さ。演出家にとっては色んな事を試せるから。安濃さんは『めぞん』で音楽を使わない話とかしてたしね」

原註

  1. 想像だが、これは特にあたるの解釈の違いでは無かろうか。押井氏はあたるを、「バカな事をやっているが実は頭が良い。心の奥底ではラムの事が好き」と捉えているのに対し、金春氏は「単に女好きなバカ」と捉えている節があって、それが金春氏が脚本を担当した『リメンバー・マイ・ラヴ』や『いつだってマイ・ダーリン』に現れているように思える。
  2. うる星やつらの劇場版は正確に言うと『うる星やつら オンリー・ユー』 『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』『うる星やつら3 リメンバー・マイ・ラヴ』『うる星やつら4 ラム・ザ・フォーエバー』『うる星やつら完結編』『うる星やつら いつだってマイ・ダーリン』の6つ。高橋留美子氏が『完結編』まででの中では『オンリー・ユー』が一番好きだというのは私も聞いた事があるが、『いつだってマイ・ダーリン』とどちらが好きかというのは不明。
  3. 勿論押井氏は、この後に『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』をやる事になった。
  4. これを後にうる星やつらのTVシリーズで(押井氏が辞めた後に)やったのが、141話『堂々完成! これがラムちゃんの青春映画』らしい。

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