野良犬の塒
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野良犬の塒 押井守/プロダクションI.G作品 Wiki

アニメエキスポ東京

さて、1月18日に行なわれたアニメエキスポ東京のリポート。I.Gブースではイノセンスの美術がパネル展示され、新しいイノセンスの宣伝用特報などが公開されていた。あとPS2 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEXamazon)の体験版がプレイできたので、ちょっとそれについて。これがどんなゲームかを一言で言うとFPS(First Person view Shooting)である。素子もしくはバトーを3D空間の中で動かし(タチコマを動かすときもあるようだ)、敵を射撃などで攻撃して進んでいくというものだ。敵に近づいたら格闘で倒すことも可能であり、その時はMATRIX風のスローモーション画面となる。体験版では余り「攻殻らしさ」というのは見えてこなかった。まあ素子で、壁と壁に挟まれた狭い空間で、壁を蹴り上がっていくといったアクションが強いて言えば攻殻的か。それで問題はゲーム内容はどうだったかという事だが、何せ私はRAINBOW SIXなどの「銃弾一発で生死が決まる」糞リアルFPSばかりやっている人間なので攻殻SACのゲームを正当に評価できるとは思えない。しかも「キーボードとマウスでないとFPSなんてやれるか!」という人間でもあり、PS2のコントローラーに四苦八苦していたというのもある。だが「FPS初心者にはこんなものか」というくらいのゲームではないか。ゲーム中にアニメが入ることを期待していたのだが、生憎ゲーム合間のデモは全てゲームと同じ3DCGで表現されるようだ。ただし勿論声優はアニメと同じである。

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(スタンド アローン コンプレックス) - 『攻殻機動隊』序盤の任務は…… - ファミ通.com

それで行なわれたトークショーについて。以下ほとんど文章を纏めず、聞いたままで記述しており読みにくい所もあるかと思いますがご了承を。司会は小黒祐一郎氏。まずI.G社長の、石川光久氏が入場。
石川「石川です。昨日サンフランシスコから帰ってきて、時差ボケも治っておらず、3時半集合だというのを13時集合だと勘違いしていたんです。それでDEAD LEAVESが上映されている近くのテアトル池袋に行ってきたら、レイトショーだということで今の時間やっていなかった(笑)。それでその映画館の前にラーメン屋があって列が出来ていたんです。そこ並んでいたら、前に並んでいるカップルが映画の話をしていたんです。『イノセンスってかっこいいよね、1G(いちジー)ってとこだよね、ジブリが製作協力って行ってるけどわかんないよね』とか話していて、『アイジーなんだ!』と突っ込みたかった(笑)。このトークショーに来た人は、アイジーということを広めて頂きたいと思います(笑)」
石川「サンフランシスコに、ジョージ・ルーカスのスカイウォーカーサウンド、スカイウォーカーランチがあるのですが、イノセンスの音響を録りに、1月4日から押井監督と2週間かけて音楽のプリミックスをしにいってきたんです。ジョージ・ルーカスはシャイな男で滅多に人に会わないんですけど、今回本人から『是非会いたい』ということで押井さんと会ってきたんです。ルーカスの話をこの場ではちょっと話せないので残念ですが、実際にルーカスと会ったら、社交的で印象が違うなと。
それで何がジョージ・ルーカスで感心したかというと、テアトル池袋に行くとイノセンスのジグレがあるんです。1万円するんですけど、これをジョージが凄い気に入って、この映像の作り方は何だとやたら聞くんです。それでジグレをルーカスオフィスの一番目立つところに飾ると本人言ってましたので。このジグレは数が限定ですので、今日8時50分テアトル池袋にいってですね、売り切れないうちに皆さん買ってください(笑)。ルーカスは『1000万円払っても買いたい』……とは言わなかったんですけど(笑)、買えばルーカスのオフィスにあるのと同じものが飾れるので(笑)」
石川「今回イノセンスの音響は、アカデミー(音響賞の)常連の、ランディ・トムら3人が主戦力でやった音なので押井監督は大満足していました。これは是非劇場に行ってみて欲しい」
石川「(DEAD LEAVESについて)これはですね、テアトル池袋で間違えて裏口から入ってしまったくらいなので、入り口と言うよりも裏口の作品ですね(笑)」
石川「(イノセンスは)アメリカではGHOST IN THE SHELL 2と言われているんですけど、これ以外の作品で何を作っているのかと必ず聞かれるんですが、DEAD LEAVESって何だとルーカスに聞かれたんですが、ヒットホップをアニメにしたらこれだと。本人はアメリカングラフィティを作ったり、リーゼント髪の若い頃の面影があるので、凄い興味があると……言ってないですけど多分そうです(笑)」
ここで、DEAD LEAVESの今井トゥーンズ氏、今石洋之氏が入場(どうでもいいが二人の名前が似ているので聞き分けるのに苦労する)。
今井「原作・企画を担当した今井です。一介のイラストレーターがこんな壇上に上がっているのが異様な雰囲気ではありますが、よろしくお願いします」
今石「IGの裏口作品を担当させていただきました今石です。今の裏口作品という社長の言い方は正しいと、色々な意味で裏口作品を作らせていただきました感じがありまして、非常に楽しかったです(笑)」
DEAD LEAVSEのトレイラーが放映されてからトークショー再開。
小黒「海外からのお客さんも来ているのに(トレイラーの台詞から)『すげーセックス』ですからね(笑)」
今石「『すげーセックス』ですよ(笑)」
小黒「これが裏口たる所以ですか」
今石「そうですね、当然表看板はイノセンスが背負って立っているわけで、僕がこの作品を制作している同じフロアで、真面目に丁寧にイノセンスを作られているわけで。普段僕はガイナックスというスタジオで仕事をしているんですが、そこからI.Gに呼ばれて監督するということを考えていると、普段I.Gが作っている作品のイメージとは違うものを作った方がいい気がしたので、そういう感じで作っています」
今石「少なくともイノセンスからは『うんこ』とか『ちんこ』とかいう言葉は出てこないので(笑)、なるだけI.Gの既存をイメージとは違う、『I.Gでこれをつくったの?』と言われるのが嬉しいくらいな、そういう感じで作っておりました」
石川「新宿のファンタスティック映画祭で(DEAD LEAVES上映に)小学校の娘を連れていって、かみさんにえらい怒られて、その日家に入れて貰えませんでした(笑)」
今井「(I.Gに企画を持ち込んだことについて)元々攻殻機動隊とかで知っているプロダクションなので、『頼もう』ということで恩を売って……はいないですが、プロデューサーの森田さんとはお知り合いだったのでコミュニケーションをとっていたのですが、海外向けのアニメの話があって、今井さん企画があったら出していただけませんかと、それで出したんですけど」
今井「元々は180度テイストが違っていて、ちんこうんこは出ていなかったです(笑)。やっぱり人のフィールドに企画を出す以上、一番最初にうんことかちんこというのがあったので(笑)。でも今石さんが作っているのは僕の中に存在することで、やりたかったものを見透かされているなと。別にうんこちんこだけがやりたかったわけではないですけど(笑)そういうテイストは共有しているものがあったので、見た感じは感動に次ぐ感動でした」
今石「確かにその通りではあるんですけど、今井さんが持っている作風の中にそういうのがあって、そこに共感して僕が仕事を受けた部分があったので、それを過剰に出してしまった部分はあるんですけど。気分とかテイストとかはやっている途中で変わっていますが本質的には通じていると思うので、そういう方向に振ってしまうことの迷いとかはなかったですね」
今石「今回初監督という事もあってですね、アニメ用のキャラクターやってコンテも演出も作画監督もやって、かなりの工程を一人で掛け持ちしてしまって、大変すぎてしまってですね(笑)、それは反省点ですね。今度監督やるときは人にやって貰おうと(笑)一人でやるものではないと実感しました」
小黒「秘話を紹介しますとですね、I.Gのカリスマアニメーターと呼ばれている人が、修正しなければならない修正原画が今石さんの机に山積みになっているのを、あんなに積んであるのを見たことがないというくらいだそうで」
今石「それくらい机の上に仕事をためてしまってですね。各部署を僕一人掛け持ちにしてしまったため、出口が一つしかない。そこで結果的にスケジュールが遅れることになってしまったんですけれども。そういう状況ではあったけど、その分僕の思った通りのフィルムに近づいているというか、クオリティは上がったと思うので、それを支えてくれるI.Gは凄いと思いました。なかなかこれだけ自由に作らせてくれる現場はないと思うので」
石川「今日イノセンスのことでちゃんとした話をしようとずっと考えていたんですが、DEAD LEAVESの事を考えるのを忘れちゃったんですよ(笑)。それくらい強烈なんですけど、今井さんキャラクターのキャラクターを動かすのがアニメーターにとってすごくしんどくて、2Dで全部書いた無謀とも言えることをやっているので、これは是非劇場で見て欲しいと思います」
今井「普段は2Dでイラストを描いているので、3Dに起こされるということを考えていなかったんですけど、アニメの表現方法としては正しいことでもあるし、今石さんだからというか、2Dで全てやり通して凄い量のセルが動いている、『どこもとまってねーじゃん』という、(画面が)4分割されて全部動いているとか凄いことをしているので、見る側からして原作から抜けてみても感動したし、クリエイターとしても凄い感動しました」
今石「3Dは1カットもありません。アニメそのものの動きの快楽を突き詰めようと言うのが今回特にあって、3Dでやって迫力が増すということもあって、3Dを使うということが頻繁に行われていますけど、そこを敢えて2Dでやることの意味というのが見つけられないかなと思いまして。3Dだけではなく、光のフレアとかディジタルエフェクトなども普通に行われているのですが、それも全く敢えてやらずに手で描いているものだけで空間とか動きとかを表現する。それをやるとどうなるかな、漫画っぽい形で見せられると面白いんじゃないかなと思ってやったのがあります」
小黒「でも、セル画時代にはなかったディジタルならではの点もありますね」
今石「それはそうですね、目に痛いくらいの極彩色であったり、技術的な話だと画面分割であったり、セル重ねが多かったり、そういう細かいところではディジタルの恩恵は十分に受けています」
今井「元々自分のイラストが結構派手目になっちゃうんで、そういうのはすごく今石さんは取り込んでくださっているなと思うんですけど。それが動いてトラックビデオみたいなのりが結果的に出てきているというか、プラスハイテンションな声優さんと池さんの劇中音楽と、新川さんのDJなど、派手派手加減がうまくリンクしていていい落とし方になっていると思います」
小黒「今石さんは今までアニメおたく的なフィールドでばりばりやってこられたんですが、今回この企画を得ておしゃれ系アニメのところに触れたかなと思うんですが、そのあたりはいかがでしょう」
今石「DEAD LEAVESをやる以前がそういう色合いの仕事が強くて、次はちょっとそれを抜いた仕事がしたいというのがあったんですが、今井トゥーンズさんのイラストのイメージがあったからこそ、そのイメージを作品に入れようと。それでおたく的なイメージとかは結果的ににじみ出てくるものは仕方ないけど、積極的には入れないようにしようと思いました」
今井「あんまりお洒落とかおたくとかいうフィールドは越えちゃっているんで、色んな人を取り込んで色んな人に見て欲しい、だからちんこやうんこやせっくすが出ているんだと思いますよ」
今石「いま言っていたことは正にその通りだなと思うんですけど、僕もおたく的なものは入れないようにとは言ったんですが、今井さんのイメージの中にもおたく的なものはあるんですよ。でもそれは限定されたアニメファンのものだけではなくて、世の中に当たり前にあるものとして消化していて、それはおたくだから入れているのではなく自然だから入れている。それがお洒落な方向に取られてもよし、おたくな方向に取られてもよし。そういう感じなんですよね。だから下ネタがいっぱい入っていますが、それは自然な感じを目指していると言えば目指しているんですよ(笑)。人間生きていれば糞もしょんべんもするし、そういうことを普通に面白がってもいいんじゃないかという、必要以上に上品にすることもないし、必要以上に下品にすることもないし」
小黒「今石さんが、まるで自分の欲求と関係なく作っているような真面目な話をしていますが、ちんこドリルというのは理屈で出ているわけではなくて描きたくて描いているんでしょう」
今石「そうですね、ちんこでかいといいなという(笑)。真面目な話は大体後付の理由だったりするんで(笑)。『これ思いついたからやっちゃえ』という(笑)。それが原点ではありますけど」
小黒「恒例なのでちんこドリルの話はしておかないとならないんですけど、映画見ると半分くらいの人がちんこドリルの話をしているんですね」
今石「重要なキャラクターでね、ちんこさんいないと終わらないんですよ(笑)。あのキャラがいないと下ネタが終わってくれないというか、そういう意味でのキーになるキャラクターなんですけど(笑)」
今石「『こいつがいるから真面目なことをやってもしょうがないよ』と諦めがつくキャラですね(笑)。でもキャラが立ちすぎて困りました。目立ちすぎて、他のキャラが何やってもこいつより目立たない(笑)」
今井「ちんこやうんこは掴みなので、見ていない方はそれで後込みしないでみてください、と一応言っておきました(笑)」
今石「(見所は)今話していて大体想像がつくとは思うんですけど(笑)、余りI.Gということは忘れて、ビールとか酒とかのんで、酒のつまみに見るくらいの軽い感じで、馬鹿なやつが映画作っているという(笑)そういう開放感に満ち溢れて欲しいという感じです」
小黒「I.Gが作ると馬鹿な映画もこんなに立派になるということですね」
今井「思ったよりは立派です(笑)」
石川「今井さんの名前どこから聞いたかなずっと思っていたんですけど、フリクリで中入れをやっている今石はすごいぞとみんなが言っていたんですよ。それが最初に聞いた印象で。フリクリはアメリカではTVでもオンエアされて、ニューヨークのプラザというファッションショーにこれの曲を作りたいというくらいクールだというんで、どの絵をとっても絵になる、それが凄いなと。一枚の絵の良さを追求した、それがガイナックスの良さで、その監督が今石さんだということで。フリクリがあってこれがあったので、是非見てください」

次に、イノセンスのトークショー。まずイノセンスのトレイラーが上映された。
小黒「素晴らしいですね。全編このクオリティなんですか」
石川「全編これ以上ですね」
それから作監(の一人)西尾鉄也氏入場。
西尾「イノセンスの作画監督をやりました西尾鉄也です。首に掛かっている(開場通行証の)札には『評論家』とあるので、今回は評論家という事で(笑)」
小黒「西尾さんは、最近のI.Gの人狼BLOODなど主立ったところに参加しているんですが、イノセンスどうでしたか」
西尾「まあ、終わってみれば楽しい仕事でしたね。やっている最中はつらいこともあったんですけど、終われば何でもいい仕事ですよ」
西尾「実作業、設定書いていたりする期間も入れると、2年くらいはやっていたと思いますよ」
小黒「今回、もう一人の作監である沖浦さんもゲストに来る予定だったんですが、沖浦さんの姿が見えませんね」
西尾「今も一人孤独にアニメーションのクオリティ上昇を目指しているはずです、この日曜日も(笑)」
小黒「I.Gのなかでのイノセンスの立ち位置はどういったところに位置するのでしょう」
石川「そうですね、この作品はI.Gを根本的に自立させようというのが最初のテーマだったと思います。自立ですね。この話を言うと2時間くらい欲しいので、小さい話からはいった方が聞きやすいと思いますけど(笑)」
石川「前にアニメージュで、石川の好きな数字は69だという話が出ましたがこれは冗談でも何でもなく深い意味が込められているんです。イノセンスにおいてもですね、例えば日本語に訳すと無垢という意味ですが、これも69。もう一つは、イノセンスの悪玉のカニ男というのがありまして、右腕のタトゥをカニにしてくれという要求だったんですが、でもそれを実際にやると作画が死ぬくらい大変なので、69という数字になったんです。これも偶然か必然か知らないけど必ず69なんです。それに1969年と言えば監督の押井さんが高校生くらいで学生紛争が盛んな頃でしたし、色々意味があるけどでもそれじゃない。もっと69というのは深い意味があるので、これはイノセンスを10回見てほしい、こうすると多分ちょっと判ってくる。もう一つここを見ている人だけのためにいうと、オープニングの絵に、CGにこのテーマはなんだというのを監督として仕掛けがしてあるんです、これも押井さんが言ったんですけど、10回見ると判る人がいるかもしれないと。もっと言うと押井さんは写り込みが好きなんです、虚像だったり虚構だったり、演出で必ず映り混みを要求して来るんですが、オープニングで映り混みを10回見てみれば、押井さんの仕掛けた罠が判りますよ」
石川「アニメ業界の今後をどうするのかとか、それらしことを良く言われるんですけど、アニメ業界は給料うんぬんもあるけど、魅力ある作品を作っていれば人が入ってきてテッツン(西尾氏)みたいな人が現れる、みんなを驚かせるような凄い作品を作る、その答えとしてイノセンスを作っているんだということです」
小黒「7年くらい前からI.Gで仕事をなさっている西尾さんから見てI.Gとはどういう会社でしょう」
西尾「そんなに余所のスタジオを知っているわけではないんですが、現場、下界と呼んでいますけど、石川さんみたいに下界に降りてきてくれる社長さんがいるスタジオというのはあんまりないんですよ。顔も見たことないという会社が多いんですけど、俺が一番最初にI.Gに行ったときから石川さんがいて、会社一丸となって作品を作ってくれる会社なんだと思って、それがずるずると今に至っているという感じですね」
小黒「I.Gの作品て堅いものとか真面目なものが多いんですけど、西尾さんはおじさんばかり描いているという印象がありますが」
西尾「そうでもないんですけどね、大きな予算で作られる作品にそういうのが多いというだけで、DEAD LEAVESみたいなのがありますし、まあその中でもDEAD LEAVESは異色ではありますけど(笑)、ぶっちゃけいうとI.G的なリアルさハードさというのが、アニメーターの方も疲れてきているんで、これ(イノセンス)が最後になるんじゃないかと現場では言われてます」
小黒「ああいったかっちりしたリアルなものを書くのは大変ですか」
西尾「大変ですね。押井さんの目指しているところはアニメとか実写とかいう垣根ではなく純粋に映画ですから、映画であるためには、実写の実際の役者は振り向いたら顔の形が変わっているという事はないので、それを再現するためには顔がころころ変わってはいけないし、形も変わってはいけない、これは辛いですよ。今回3Dも多用しているんですけど、3Dにあわせて2Dの作画をするのは大変で、何も楽になっていないじゃないかと押井さんに文句を言っていたんですけど(笑)」
小黒「恐らくイノセンスというのはここ数年間のI.Gと押井作戦の集大成になるだろうと思っているんですが。アヴァロンの3D、パトレイバー2のレイアウト、人狼の作画、BLOODのエフェクトがいっしょになったという」
西尾「さっき今石さんの話を聞いていて羨ましいなと思ったんですよ。こちらは手で描いたものが何一つそのまま画面にならない。美術も密度あるしディジタル的なフィルターがあるし、漫画チックな煙をかいてもディジタルでいい感じの煙にしてくれるんですよ。完成形が見えない。今までもそういうことはあったんだけど、今回特に。(映像が)上がってきたら『そんな感じになったの?』とか、自分の描いたものが全然画面に出てないじゃんという。絵描きサイドからは押井さんは恨まれてます(笑)」
小黒「今回3人作監がおりますが、誰かがその中で更に総作監というのをやられたりしているんですか?」
西尾「通常アニメーションの映画を作ったときに、作画監督という職種が基本的には一人で、全体の絵のトーンを統一するということをしているんですが、劇場長編となると物量が大変なので、最近のは3人なり4人なり立ったりすることが多いんですが、その上に更に一人立てて総作画監督として更に統一するというのがセオリーとしてあるんですが。今回(イノセンスで)作監が3人、テロップ上では4人立っていますが、隣の作監が何をやっているのかみんな知らないでやっていました。みんなで集まって『今回こういう感じで行くのか』という打ち合わせをすればいいのに、しないんですよこの連中は(笑)。なんででしょうね。だから小黒さんみたいに目の肥えた人から見ると顔ばらばらですよ。一般のお客さんが見たときにばれなきゃいいなと思っているんですけど(笑)」
小黒「今回黄瀬さん、沖浦さん、西尾さんと3人作監がいらっしゃったんですけど、どうして打ち合わせしなかったんでしょうね」
石川「多分三人がお互い嫌いだからだと思うんですけどね(笑)。まあ冗談ですけど。黄瀬に関しては情感があるシーンをうまく描いている、押井さんはバセットハウンドが好きなので、これは黄瀬に描かせているんですけど。テッツンは勢いがありますね、勢いのあるシーンは全部テッツンだと思って貰っていいです。沖浦は緊張感ですね。表情が人間にあるように、全く違和感がないですね。トータル一人で描くよりも3つのシーンでちゃんとバトーの表情が変わっている、これは余計驚くところだと思いますね」
小黒「(トレイラーに出ている)バトーがコンビニに行くシーンで、3Dシーンがちゃちいとか、作画のタイミングがおかしいとか思った人もいると思うんですけど、あそこの作監は」
西尾「俺ですよ(笑)。よくぞ話を振ってくれたという感じなんですが、あそこは押井さんのああいうオーダーだったんですよ。『あの3Dは駄目なんじゃないの』と責められたんですけど、ああいうオーダーだったんですよ。ネタバレになるので詳しくは言えないんですけど、ああいう3Dが浮いてる、作画も妙に浮いているというそういうシーンなんですよ。スローモーションを作画でやれというのは辛い仕事でして、更にあのコンビニのシーンで商品が一個一個テクスチャで張り込んでいるんです。全部やりすぎろと、作画も美術も3Dもやりすぎろという指示で、おかしな空間を演出しているんだというのを毎回友達に説明しているんですが、本編のストーリー上で流れてみないと納得してもらえなくて、何故あそこを最初に見せるんだろう、もっと3Dをうまく使っているシーンがたくさんあるのに、何故あそこを最初に流したのだろうとちょっと恨みましたね(笑)。それで本編見て、それでやっぱりちゃちいよと思われたらそれは俺の失敗なんで、押井さんを責めないでください(笑)」
石川「コンテでは気づかなかったんですけど、実はカット割りは全て実写なんですよ。先に話すとネタバレになりますんで言えないけど、押井さんのやりたいことはカット割りも含めて実写なんですよ。言いたいんですけど、ぜひ映画を見て欲しい(笑)」
小黒「僕は押井さんのことだから、『まだまだ3DCGこんなものか』と思わせといて、劇場で『おおこれ凄えよ』と思わせるためかと思ったんですけど」
西尾「そうですねえ、いや多分そういう見方が正しいと思いますよ」
小黒「あれ見てちゃちいと思う人はそうとう幅が狭いでしょうから。普通の人は凄いなと思うんで。ナウシカのDVD買った人は、アニメってこんなに立派になったのねという素朴な印象だと思いますけど」
西尾「そうであってほしいですね(笑)」
小黒「イノセンスは全くお話知らないんですが、『こんなところを見てほしい』ということがありましたら」
西尾「3人作監で顔がバラバラなところは目をつぶって貰って(笑)、自分でやったものを褒めるのは照れくさいので。僕は一観客としてイノセンスに期待しているのは音楽なんですよ。収録に立ち会ったプロデューサーとかの話を聞くと『音楽凄かったよ』と。いやだからどう凄かったのと聞いても『凄いとしか言いようがない』と。音楽付けると印象が変わるんですよ。僕らのやっているのは普段無音の世界で絵を描いているんですが、音楽ついた途端に映画になるんですよ。一観客として期待いしているんですけどね」
石川「皆さんのために特別に話したいと思いますが、音楽が12月29日ですかね、河口湖のスタジオの収録に立ち会って、やはり凄いとしか言いようがない。それで帰るとき押井さんに、沖浦の上がりが遅いと、それで押井さんから沖浦にちゃんと上げろと、がつんと言ってくれという指示を受け取ったんですが、僕が帰って実際に言ったのは『沖浦、ここまで粘ったんだったら、最後までとことんやれ。ここで中途半端な仕事するんだったら、二度とおまえと仕事しない』と。さすがに0号試写の納品を落としたら怒りますけど、沖浦は才能があるんで、遅れた責任をとってくれると思うんですよ。サウンドも監督大満足なんですね」
石川「サンフランシスコで押井さんが音とっているとき僕が何やっていたかというと、ILMの社長のジム・モリス氏とかスカイウォーカーサウンドの社長のグレン・カイザーとかが招待してくれて、滅多に人に会わないと言うシャイなジョージ・ルーカスも会ってくれて、それだけI.Gに注目している、押井さんというのもあるでしょうけど、I.Gのスタッフに興味を持ってくれているんです。それで招待されて会ってくれたはいいんだけど、全員に言われたのが『ギャラが安すぎる』ということだったんです。今回それも全部取り下げて、今回全部追加料金ただでやってもらったんですけど、そういう作品だからこそイノセンスを見て貰いたいと、そういうことでよろしいでしょうか」
と、纏めてみたら石川氏のセールスが強烈なことで。

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