#author("2023-08-07T10:38:35+09:00;2023-06-15T03:23:59+09:00","","")
#author("2024-05-29T01:42:07+09:00","","")
* キルス [#p77079cd]
#contents
** 概要 [#Summary]

|~カテゴリー|[[言語]]|
|~スペル|Cirth|
|~異訳|キアス|
|~その他の呼び名|ケアタール(Certar)、ルーン文字(runes)|
|~その他の呼び名|ルーン文字(runes) &br; ダエロンのルーン文字(Daeron's Runes)&br; ケルタール(Certar)|

[[ベレリアンド]]の[[シンダール]]族の[[エルフ]]が石や木に名前や碑文を刻むために考案した文字。キルス(cirth)の名は[[シンダリン]]での複数形で、単数形はケアス(certh)((certhの語は切る(cut)、裂く(cleave)を意味する[[エルフ語]]の語根KIRから派生した。))。[[クウェンヤ]]での名は複数形ケアタール(certar)、単数形ケアタ(certa)。
[[ベレリアンド]]の[[シンダール]]族の[[エルフ]]が石や木に名前や碑文を刻むために考案した文字。キルス(cirth)の名は[[シンダリン]]での複数形で、単数形はケルス(certh)((certhの語は切る(cut)、裂く(cleave)を意味する[[エルフ語]]の語根KIRから派生した。))。[[クウェンヤ]]での名は複数形ケルタール(certar)、単数形ケルタ(certa)。
刻みやすいよう直線で構成された角張った形をしており、作中ではその形状がよく似ていることから''ルーン文字''と呼ばれるが、現実のルーン文字とは歴史だけではなく文字そのものなどにも差異があることに注意([[Wikipedia:ルーン文字]])。

** 解説 [#Explanation]

『[[追補編>指輪物語/追補編]]』の追補Eではアンゲルサスのキルスとその音価の一覧表が収録されている。キルスはその形状によってグループ分けがなされ、表では二つの小さな丸で区切られている。
音価表で★印が付いているキルスはドワーフがアンゲルサス・モリアで導入し、彼らだけが用いた文字。―があるものは左がアンゲルサス・ダエロン、右がアンゲルサス・モリアの音価。括弧で囲まれたものは[[エルフ語]]に用いる時のみの音価。
&ref(angerthas_table.png,,25%,追補E「アンゲルサス」);

*** キルスの歴史 [#k4ac81a4]

キルスを最初に考案したのは[[ドリアス]]の伶人[[ダエロン]]であると言われる。[[ベレリアンド]]の[[シンダール]]族の[[エルフ]]に用いられた初期の古いキルスは後世のアンゲルサスに比べると単純な形態だった。ベレリアンドでシンダール族と交流を持った[[ドワーフ]]はキルスを高く評価し、彼らを通して東の地へ伝わり、ドワーフ、[[人間]]、そして[[オーク]]に至るまで多くの民に知られるようになった。各々の民は自分たちの文字の能力とその用途に応じてキルスに変更を加えて用いた。そのようなキルスは[[第三紀]]末においても[[谷間の国の人間]]((例として[[マザルブルの書]]))や[[ロヒルリム]]((例として[[黄金館]]の床模様、[[マークの角笛]]))、そしてオーク(('''しかも樹皮には、悪しき者たちの文字(evil runes)や、[[かの目>御目]]を形どった恐ろしい印が乱暴な線で刻まれていました。''' 『[[二つの塔>指輪物語/二つの塔]]』「香り草入り兎肉シチュー」[[イシリエン]]での[[モルドール]]の痕跡))に用いられていた。

>その頃、[[シンゴル]]の[[王国>ドリアス]]の伝承の&ruby(おさ){長};、吟遊詩人の[[ダエロン]]が、ルーン文字を考案したと言われている。そして、シンゴルの許に出入りしていた[[ナウグリム>ドワーフ]]は、この文字を習い覚え、その発明を非常に喜んで、ダエロンの考案を同族の[[シンダール]]以上に高く買ったという。
ダエロンのこのルーン文字、キルスは、ナウグリムによって[[山脈>青の山脈]]のかなたの東の地に伝えられ、いろいろな種族に知られるに至った。しかし、シンダールがこの文字を記録に用いたのは、戦乱の時代に入るまでは非常に少なく、記憶に留められていたことの多くは、[[ドリアス]]の廃墟の中に消滅してしまったのである。((『[[シルマリルの物語]]』「第十章 シンダールのこと」))

一方、[[第一紀]]のベレリアンドでは[[アマン]]からやって来た流謫の[[ノルドール]]族の[[エルフ]]がもたらした[[テングワール]]([[フェアノール文字]])の影響を受けて、キルスの改良と再編が行われた。そうして生み出されたキルスのアルファベットのことをシンダリンで「長いルーン文字の列(Long Rune-rows)」を意味する''アンゲルサス''(angerthas)と呼び、中でも最も充実し完成度の高いものは「ダエロンの字母(Alphabet of Daeron)」すなわち''アンゲルサス・ダエロン''(Angerthas Daeron)と呼ばれた。エルフの伝承ではダエロンが古いキルスに追加と再編を施し、このアンゲルサスを完成させたと言われているからである。
一方、[[第一紀]]のベレリアンドでは[[アマン]]からやって来た流謫の[[ノルドール]]族の[[エルフ]]がもたらした[[テングワール]]([[フェアノール文字]])の影響を受けて、キルスの改良と再編が行われた。そうして生み出されたキルスのアルファベットのことをシンダリンで「長いルーン文字の列(Long Rune-rows)」を意味する''アンゲルサス''(angerthas)と呼び、中でも最も充実し完成度の高いものは「ダエロンの字母表(Alphabet of Daeron)」すなわち''アンゲルサス・ダエロン''(Angerthas Daeron)と呼ばれた。エルフの伝承ではダエロンが古いキルスに追加と再編を施し、このアンゲルサスを完成させたと言われているからである。

キルスは銘や碑文を刻むために考案された文字であり、[[中つ国]]の西方諸国のエルフたち([[エルダール]])にはそのようにしか用いられず、彼らの間では真の筆写体(true cursive forms)は誕生しなかった。そしてフェアノール文字がもたらされるとエルダールはそちらを筆記に用いるようになり、やがてキルスをほとんど使わなくなった。((無論、[[エルダール]]の間でキルスが完全に廃れて失われたわけではない。例えば[[裂け谷]]で鍛え直された[[アンドゥーリル]]の剣身や[[ガラドリエル]]から贈られた[[鞘>アンドゥーリルの鞘]]にはルーン文字(キルス)が刻まれていた。))
[[第二紀]]の[[エレギオン]]のエルフは例外的にアンゲルサス・ダエロンの使用を続け、それは彼らと交流のあった[[モリア]]のドワーフに伝わった。アンゲルサスはモリアのドワーフが最も好むアルファベットとなり、彼らを通して北方の地に広まった。そのためドワーフが用いたアンゲルサスは''アンゲルサス・モリア''(Angerthas Moria)とも呼ばれた。ドワーフはフェアノール文字にも通じていたが自身の言語[[クズドゥル(ドワーフ語)>クズドゥル]]はキルスで記すことにこだわり、キルスのペン字書体(written pen-forms)を生み出した。

*** ケルサス・ダエロン [#certhas]

[[シンダリン]]を表記するために考案されたキルスのアルファベットのこと。後のアンゲルサス・ダエロンの基となった。
追補Eによると後世のアンゲルサスに比べると音価の割り当ては体系的ではなかった(unsystematic)とされ、以下のことが説明されている。

-キルスの中で最も古いものは1・2・5・6番、8・9・12番、13・15番、18・19・22番、29・31番、35・36番、39・42・46・50番。
-軸線(a stem)と枝(a branch)でできたキルス(上記の1~31番)のうち、枝が片側だけに付いたキルスは通常右側に付いたものが使用された。枝が左側に付いたキルスも使用されたが表音上での意味はなかった。
-13・15番がhの場合は35番がsを、13・15番がsの場合は35番がhを表した。hとsの音価の割り当てはその後も厳密に定められない傾向があった。
-39・42・46・50番は母音を表し、その後のキルスの発展においても母音に用いられた。

*** アンゲルサス・ダエロン [#daeron]

ケルサス・ダエロンに追加と改良が施され、文字の形状と音価が体系的になるように再編されたキルスのアルファベットのこと。このアンゲルサスを完成させたのは[[ダエロン]]と言われているが、主要な追加部分である13~17番(ch-系列)と23~28番(kw-系列)の二系列は[[シンダリン]]にはない音を表すのに使われたため、この部分は[[エレギオン]]の[[ノルドール]]族の考案と思われる。
この再編には明らかに[[フェアノール文字]]の影響があった。すなわち以下の原則に基づいている。
-枝にストローク(a stroke)が加わることで声(voice)が加わる。
-ケアスが左右反転することは閉鎖が開いて摩擦音になること(opening to a ‘spirant’)を示す。
-ケルスが左右反転することは閉鎖が開いて摩擦音になること(opening to a ‘spirant’)を示す。
-軸線の両側に枝を置くことで声と鼻音性(nasality)が加わる。

フェアノール文字と同様の子音の系列に並べ直すと以下のようになる。

||~p-系列|~t-系列|~ch-系列((この子音の系列の名称は追補Eには登場せず、あくまでも便宜上のものである。))|~k-系列|~kw-系列|
|~無声閉鎖音|1 p/p/|8 t/t/|13 ch/t͡ʃ/|18 k/k/|23 kw/kw/|
|~有声閉鎖音|2 b/b/|9 d/d/|14 j/d͡ʒ/|19 g/ɡ/|24 gw/ɡw/|
|~無声摩擦音|3 f/f/|10 th/θ/|15 sh/ʃ/|20 kh/x/|25 khw/xw/|
|~有声摩擦音|4 v/v/|11 dh/ð/|16 zh/ʒ/|21 gh/ɣ/|26 ghw/ɣw/, w/w/|
|~有声鼻音|6 m/m/|12 n/n/||22 ŋ/ŋ/|27 ngw/ŋw/|
| |7 (mh/ṽ/), mb/mb/|38 nd/nd/|17 nj/nd͡ʒ/|33 ng/ŋɡ/|28 nw/nw/|

|>|>|>|~その他子音|
|29 r/r/|30 rh/r̥/|31 l/l/|32 lh/l̥/|
|34 s/s/|35 s/s/|>|36 z/z/, ss/ss/|
|54 h/h/||||

-5・6・7番は上記の原則から外れた音価が与えられた。古い[[シンダリン]]においてmは軟音化(soft mutation)によって摩擦音化したmh((鼻音化したvの音/ṽ/とも定義される。))になった。このmhを表すにはmのケアスを反転させることが最も適当だったが5番は左右対称の形なので、6番にmを、7番にmhの音をあて((後にmhは通常のvの音となったらしく、作中のラテン文字の綴りでもmの軟音化はvと表記されている。ただし「[[王の手紙]]」の[[シンダリン]]の文章ではmhが[[フェアノール文字]]で表記されており、恐らくアンゲルサスでもmhのvは変わらずに7番で表記されると思われる。))、5番には代わりにhw(無声のw)の音をあてた。また7番のmhは[[エルフ語]]の時のみの音価とされており、それ以外の言語では子音の組み合わせmbを表す。(([[エルフ語]]であってもmhを用いない[[クウェンヤ]]も同様か?))
-5・6・7番は上記の原則から外れた音価が与えられた。古い[[シンダリン]]においてmは軟音化(soft mutation)によって摩擦音化したmh((鼻音化したvの音/ṽ/とも定義される。))になった。このmhを表すにはmのケルスを反転させることが最も適当だったが5番は左右対称の形なので、6番にmを、7番にmhの音をあて((後にmhは通常のvの音となったらしく、作中のラテン文字の綴りでもmの軟音化はvと表記されている。ただし「[[王の手紙]]」の[[シンダリン]]の文章ではmhが[[フェアノール文字]]で表記されており、恐らくアンゲルサスでもmhのvは変わらずに7番で表記されると思われる。))、5番には代わりにhw(無声のw)の音をあてた。また7番のmhは[[エルフ語]]の時のみの音価とされており、それ以外の言語では子音の組み合わせmbを表す。(([[エルフ語]]であってもmhを用いない[[クウェンヤ]]も同様か?))
-30番はrh(無声のr)、32番はlh(無声のl)を表す。
-34・35番はどちらもsを表す(フェアノール文字29・30番と同様)。
-36番は理論的にはzの音を表す。ただし[[クウェンヤ]]とシンダリンではzの音が無くなったので、代わりに二重の子音ssを表した(フェアノール文字31・32番と同様)。
-38番は頻出する音連続(sequence)のndを表した。ただしケアスの形状の点では歯音系列(t-系列)の8~12番とは関連がない。
-38番は頻出する音連続(sequence)のndを表した。ただしケルスの形状の点では歯音系列(t-系列)の8~12番とは関連がない。

|>|>|>|>|>|~母音と半母音|
|39 i, y/j/|>|42 u|46 e|48 a|50 o|
||>|43 ū|47 ē|49 ā|51 ō|
||44 w/w/|5 hw/ʍ/||||
||>|45 ü|||52 ö|

-43・47・49・51番は長母音。((長母音īやȳの表記については説明がない。))
-39番は母音iまたは子音y/j/を表す。
-44番は子音w。上述の通り5番は無声のwであるhw。
-45番はウムラウトのüでシンダリンの母音y/y/のこと。
-52番はウムラウトのöで古いシンダリンの母音œのこと(二重母音のoeではない)。((この古い母音œは後にeの音に変化した。46番を用いるようになったかは不明。))

番号は振られていないがアンゲルサスの表には以下の文字も載せられている。
-th/tʰ/やkh/kʰ/のような有気音を表すために「+h」を示す短い縦線をケアスの右下に添えた。
-「&」を表すケアス。
-th/tʰ/やkh/kʰ/のような有気音を表すために「+h」を示す短い縦線をケルスの右下に添えた。
-「&」を表すケルス。

*** アンゲルサス・モリア [#moria]

アンゲルサス・ダエロンは[[エレギオン]]の[[ノルドール]]族と交流のあった[[モリア]]の[[ドワーフ]]に伝わり、彼らはアンゲルサスに変更を加えた上でこれを使用した。このアンゲルサスを特にアンゲルサス・モリアと呼ぶ。ドワーフが施した変更によってキルスの形状と音価は一部で体系的ではなくなった。

||~p-系列|~t-系列|~ch-系列|~k-系列|~kw-系列|
|~無声閉鎖音|1 p/p/|8 t/t/|13 ch/t͡ʃ/|18 k/k/|23 kw/kw/|
|~有声閉鎖音|2 b/b/|9 d/d/|29 j/d͡ʒ/|19 g/ɡ/|24 gw/ɡw/|
|~無声摩擦音|3 f/f/|10 th/θ/|15 sh/ʃ/|20 kh/x/|25 khw/xw/|
|~有声摩擦音|4 v/v/|11 dh/ð/|30 zh/ʒ/|21 gh/ɣ/|26 ghw/ɣw/, w/w/|
|~有声鼻音|6 m/m/|22,53 n/n/||36 ŋ/ŋ/|27 ngw/ŋw/|
||7 (mh/ṽ/), mb/mb/|33 nd/nd/|38 nj/nd͡ʒ/|37 ng/ŋɡ/|28 nw/nw/|

|>|>|>|~その他子音|
|12 r/r/||31 l/l/|32 lh/l̥/|
|54 s/s/||>|17 z/z/|
|34 h/h/|35 ’/ʔ/|||

-アンゲルサスに新しいキルス(37・40・41・53・55・56番、以下''太文字'')を導入した。これらのキルスはドワーフのみが使用した。
-[[クズドゥル]]の語頭にある母音を伴う声門摩擦音と声門閉鎖音((原書での説明は以下の通り。「h, ’ (the clear or glottal beginning of a word with an initial vowel that appeared in Khuzdul).」 clearとは調音において声門以外で狭めを作らない「声門摩擦音」を、glottalは逆に声門で閉鎖を作る声門閉鎖音を指すと思われる。))を表すため、34番をh/h/、35番を’/ʔ/とする。sは54番を用いる。
-jとzhは29・30番を用い、14・16番は捨てる。((無声のrの表記については説明がない。))
-rには12番を、nには''53番''を用いる。また形状が似る22番も混同でnに使用される。
-ŋは36番を用い、zは17番を用いる(sとzで形状に類似性を持たせる)。
-njには38番を、ndには33番を、ng/ŋɡ/には''37番''を用いる。

|>|>|>|>|>|>|>|~母音と半母音|
|>|39 i|>|42 u|46 e|48 a|50 o|55|
|>||>|43 ū|47 ē|49 ā|51 ō|56|
|40 y/j/|41 hy/j̊/|44 w/w/|5 hw/ʍ/|||||
|>||>|45 ü|||52 ö||

-子音y/j/は''40番''で表し、39番の母音iと区別する。
-''40番''を反転させた''41番''はhy(無声のyであり、/ç/に似た音)を表す。
-''55・56番''は元々は46番を半分にしたもので、英語のbutter/bʌtə/で聞かれるような母音((このような母音は[[クズドゥル]]や[[西方語]]に頻出するとされる。))を表すのに用いる。 弱くかすかに発音される場合は軸線もなく、単にストロークのみで表記される場合が多かった。

アンゲルサス・モリアは''[[マザルブルの間]]''の墓碑銘及び『''[[指輪物語]]''』の標題紙に用いられている。それらの表記には以下の特徴がある。
-nには22番のみが用いられている。
-英文では35番をsに使用する(恐らくsとhの音の割り当てが逆転している)。
-英語のson/sʌn/のoは56番、定冠詞the/ðə/のeは55番。またtranslated/tɹɑːnzleɪtɪd/のeにはストロークのみの56番が使用されている。
-英語のbook/bʊk/のooは長母音ōの51番で表す。

*** アンゲルサス・モリア(エレボール・モード) [#erebor]
*** アンゲルサス・モリア(エレボール方式) [#erebor]

[[エレボール]]の[[ドワーフ]]はアンゲルサス・モリアに更に変更を加えたものを使用した。これは''エレボール・モード''(the mode of Erebor)として知られる。追補Eで述べられている変更箇所は以下の通り。この他にも文字の異なる音価や特異な''エレボール式キルス''(Ereborian cirth)があるが、追補Eではそれらは「''[[マザルブルの書]]''」に例示されているとしている。
[[エレボール]]の[[ドワーフ]]はアンゲルサス・モリアに更に変更を加えたものを使用した。これは''エレボール方式''(the mode of Erebor)として知られる。追補Eで述べられている変更箇所は以下の通り。この他にも文字の異なる音価や特異な''エレボール式キルス''(Ereborian cirth)があるが、追補Eではそれらは「''[[マザルブルの書]]''」に例示されているとしている。

-jとzhの音には再導入した14・16番を用いる。
-29・30番はgとghを表すか、19・21番の異体字として用いる。
-43番をzに用いる。((長母音ūの表記については説明がない。))
-17番はks(x)に用いる。
-psを表す''57番''、tsを表す''58番''のエレボール式キルスを導入する。

マザルブルの書での英文の表記では以下の特徴がある。

-[[マザルブルの間]]の墓碑銘と同じくsには35番が((判読できる限りでは34番は使用されていない。))、hには54番が用いられている。
-38番を母音(及び半母音)の組み合わせou(ow)に用いる。またai(ay), au((out/aʊt/の語に用いられている。)), ea, eu(ew), oaを表すキルスが存在する。
-二重のlを表すケアスが存在する。
-二重のlを表すケルスが存在する。
-gは29番を用いる。ただしfor''g''ed/fɔːd͡ʒd/のgは19番、brid''g''e/bɹɪd͡ʒ/のgは14番。
-bri''gh''t/bɹaɪt/の黙字のghは21番。 
-nは判読できる限りでは22番のみが用いられている。
-黙字のe、曖昧母音のe、過去形edのeはいずれも55番。

||~p-系列|~t-系列|~ch-系列|~k-系列|~kw-系列|
|~無声閉鎖音|1 p/p/|8 t/t/|13 ch/t͡ʃ/|18 k/k/|23 kw/kw/|
|~有声閉鎖音|2 b/b/|9 d/d/|14 j/d͡ʒ/|19,29 g/ɡ/|24 gw/ɡw/|
|~無声摩擦音|3 f/f/|10 th/θ/|15 sh/ʃ/|20 kh/x/|25 khw/xw/|
|~有声摩擦音|4 v/v/|11 dh/ð/|16 zh/ʒ/|21,30 gh/ɣ/|26 ghw/ɣw/, w/w/|
|~有声鼻音|6 m/m/|22,53 n/n/||36 ŋ/ŋ/|27 ngw/ŋw/|
||7 (mh/ṽ/), mb/mb/|33 nd/nd/||37 ng/ŋɡ/|28 nw/nw/|
||57 ps/ps/|58 ts/ts/||17 ks/ks/||

|>|>|>|>|~その他子音|
|12 r/r/||31 l/l/|32 lh/l̥/|ll|
|54 s/s/||>|>|43 z/z/|
|34 h/h/|35 ’/ʔ/||||

|>|>|>|>|>|>|>|~母音と半母音|
|>|39 i|>|42 u|46 e|48 a|50 o|55|
|>||>| |47 ē|49 ā|51 ō|56|
|40 y/j/|41 hy/j̊/|44 w/w/|5 hw/ʍ/|||||
|>||>|45 ü|||52 ö||
|>||>|||ai(ay)|||
|>||>||eu(ew)|au|38 ou(ow)||
|>||>||ea||oa||

また次のような略式の表記も確認できる。
-上側に置いた短い縦線で定冠詞theを表す。
-4番(v)は単体で前置詞of/ɒv/を、同じく43番(z)はbe動詞のis/ɪz/を表す場合がある。33番(nd)がendを表す場合もある。
-47番(ē)がseek, deepのeeを表す。51番(ō)はtook, pool, soonのooも表す。
-三ページ目では22番の下に横線を置くことでcannotのnnを、同様の表記をした48番でFrár, Náliの長母音āを表す。((49番は用いられていない。))

キルスを用いた数字の表記も確認できる。
-39, 50, 52, 上下反転した51, 22番の下に点一つを置くことで数字の1, 2, 3, 4, 5を表す。
-三ページ目の左上には縦線が六本並べられている。これは6を表す可能性がある。

『[[The Letters of J.R.R.Tolkien]]』の''[[Letter 118>The Letters of J.R.R.Tolkien/Letter 118]]''にもエレボール・モードのキルスで英文が書かれている。そこから分かることは以下の通り。
『[[The Letters of J.R.R.Tolkien]]』の''[[Letter 118>The Letters of J.R.R.Tolkien/Letter 118]]''にもエレボール方式のキルスで英文が書かれている。そこから分かることは以下の通り。
-マザルブルの書と同じくsは35番、hは54番、nは22番。
-Hu''gh''の黙字のghは30番。
-文字の上に曲アクセント記号[ˆ]のような記号を置くことでその文字が二重になることを示す(ha''pp''y)。
-''Ch''ristmasのch(hは黙字)は18番(k)に「+h」を示す短い縦線を添えて表記。
-runesの黙字のeは55番。

** その他のルーン文字 [#jb7cbfc0]
*** 『The Hobbit』のルーン文字 [#hobbit]

『''[[The Hobbit>ホビットの冒険]]''』では上記のキルスとは異なるルーン文字が''[[スロールの地図]]''と、オリジナルのカバーのイラストに使用されている。このルーン文字についてトールキンは同書の冒頭にある著者註で以下のように説明している。((この註は1966年の原書第3版の改訂で加えられた。邦訳は第3版を底本とする[[原書房]]の『[[ホビット ゆきてかえりし物語]]』で読める。第2版を底本としている[[岩波書店]]の『[[ホビットの冒険]]』には収録されていない。))
-本書に登場する英語のルーン文字はドワーフのルーン文字の代用である。
-基本的に現代の文字(作中で読み上げられるスロールの地図の文章)と比較すれば解読は出来る。ただし地図上にはXを表す文字((アンゲルサスの22番と同形のもの))は出てこない。
-IとUの文字はJとVにも用いられる。
-QはないのでCWで代用する。
-Zもないが必要ならドワーフのルーン文字のZ((アンゲルサスの17番))を用いてもよい。
-現代の文字では二文字で表される音(二重音字)であるth, ng, eeはルーン文字では一文字で表す。同様にeaやstを表す文字((eaはアンゲルサスの27番と同形のもの))が使用される場合もある。

また『[[The Letters of J.R.R.Tolkien]]』のLetter 25(1938年)では「三十二文字から成るアルファベットであり、アングロ・サクソンの碑文のルーンと似ているが、同一ではない。」(('''were comprised in an alphabet of thirty-two letters (full list on application), similar to, but not identical, with the runes of Anglo-Saxon inscriptions.'''))としている。
『The Hobbit』で使用された英語のルーン文字については『[[ホビット ゆきてかえりし物語]]』に一覧表が収録された。

&ref(runes_hobbit.jpeg,,15%,『ホビット』のルーン文字);

以下はスロールの地図のルーン文字についての補足。
-door/dɔː/のooとwalk/wɔːk/のaにはOの文字が使われている。
-last/lɑːst/のaにはアングロサクソン・ルーンのacと同じ形の文字が使われている。
-Dの文字には異体字がある。

『[[The Letters of J.R.R.Tolkien]]』の''[[Letter 112>The Letters of J.R.R.Tolkien/Letter 112]]''は同様のルーン文字によって書かれた手紙である。以下はその補足。
-この手紙ではSの文字を左右反転したものが二重音字のshを表す。((増補改訂版である『新版 [[ホビット ゆきてかえりし物語]]』では上掲のルーン文字の表にSHの文字が追加された。))
-nextのxは上記の説明とは異なる文字が使用されている(上掲のルーン文字の表の右側)。
-dwar''v''ish, co''v''er, ''v''eryのvにはUのルーン文字の異体字が使われている。ただしno''v''eber, e''v''eningのvはUと同形。
-文字の下に点を一つ置くことでその文字が二重になることを示す。(Ho''bb''it, a''pp''ears)
-road/rəʊd/のoaはアングロサクソン・ルーンのacと同じ形の文字が使われている。

*** 「ゴンドリンのルーン文字」 [#k2f678e8]

[[トールキン>ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン]]が恐らく1920年代に考案したと思われる、''Gondolinic Runes''([[ゴンドリン]]のルーン文字)と題されたルーン文字。『[[The Treason of Isengard>The History of Middle-earth/The Treason of Isengard]]』でその存在が言及されている。
[[クリストファ・トールキン]]がPaul Nolan Hydeに資料を送り、1992年の'''Mythlore'''誌にこのルーン文字についての記事が掲載された。また2004年の'''Parma Eldalamberon 15'''にも記事が掲載された。下の画像はLisa Starのウェブサイト'''Tyalie Tyelelliéva'''に掲載された一覧表である。
アンゲルサスとは全く異なるが文字の形状と音が関連性を持つという特徴は共通している。ただしこのルーン文字は結局作品中には登場しなかった。((『[[ホビットの冒険]]』では[[ゴンドリン]]の剣である[[グラムドリング]]と[[オルクリスト]]に刻まれたルーン文字を[[ガンダルフ]]は読むことが出来ず、[[裂け谷]]で[[エルロンド]]に解読してもらったが、このルーン文字と設定されていたのかは不明。))

&ref(gondolinirunes_cons.jpg,,20%,子音); &ref(gondolinicrunes_vows.jpg,,20%,母音);

|>|>|>|~子音|
|t/t/|p/p/|ch/t͡ʃ/|k/k/|
|d/d/|b/b/|j/d͡ʒ/|g/ɡ/|
|th/θ/|f/f/|sh/ʃ/|h/h/|
|dh/ð/|v/v/|zh/ʒ/|χ/x/|
|n/n/|m/m/|ŋ/ŋ/||
||mh/m̥/|ŋh/ŋ̊/||
|r/r/|rh/r̥/|l/l/|lh/l̥/|
|s/s/||z/z/||
||w/w/|y/j/||
||ƕ,hw/ʍ/|ꜧ,hy/j̊/|x,ks/ks/|
mh, ŋh, rh, lh, hw(ƕ), hy(ꜧ)は無声のm, ŋ, r, l, w, yを表す。
|>|>|>|>|>|~母音|
|~短母音|a|e|i|o|u|
|~長母音|ā|ē|ī|ō|ū|
|>|>|>|>|>|~前舌化母音|
|~短母音|æ|||œ|y|
|~長母音|ǣ|||œ̄|ȳ|
æ, œ, yは前舌化したa, o, u(ウムラウトのä, ö, ü)であり、/æ/, /ø-œ/, /y/の音。

** 映画『[[ロード・オブ・ザ・リング]]』における設定 [#Lotrmovie]

[[グラムドリング]]と[[アンドゥーリル]]にはアンゲルサス・ダエロンで銘が刻まれている。
[[モリア]]内部の壁には多数のキルスが刻まれ、[[マザルブルの書]]にもエレボール・モードのキルスが書かれている。
[[モリア]]内部の壁には多数のキルスが刻まれ、[[マザルブルの書]]にもエレボール方式のキルスが書かれている。
[[グロンド>グロンド(破城槌)]]と[[サウロンの口]]の兜にもキルスが刻まれている。

** コメント [#Comment]

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