立喰師列伝

Top / 立喰師列伝

立喰師列伝(たちぐいしれつでん)

関連ニュース

概要

立喰師列伝』とは立ち喰いのプロが主役の、押井守による小説のタイトルであり、またそれを映画化したものである。
立ち喰いのプロとは、立ち喰い蕎麦屋などの店に現われ、出された食べ物に文句をつけたり、店主を言いくるめたりして、ただ食いするプロであるとされている。

『立喰師』『立ち喰いのプロ』について

元来、押井守作品では各所に“立ち喰い”及び“立ち喰いのプロ”という言葉が登場し続けていた。元々は、押井がアルバイトでコンテを切った『ヤッターマン?』に立喰い蕎麦屋を登場させたのが最初ではないかと押井は語っている。
その後も『タイムボカンシリーズ』では、『ヤットデタマン?』第12話「危うし! ジュジャクの曲芸」にて、コケマツたちが立ち喰い蕎麦屋に現れる。コケマツは店主《立ち食いの竜》の腕を褒めちぎって逃げようとする。
逆転イッパツマン?』では第14話「太平洋無着陸 気球横断」にて、コスイネンとキョカンチンが悪党を辞めて蕎麦屋の店長になることを夢見ていた。

そして『うる星やつら?』にはやたらと牛丼屋が登場し、あたる達がそこで飯を食っている。第79話「命かけます授業中!」には“牛丼仮面”なるプロレスラーが現われ、 温泉マークに以下のようにのたまっていた(これは押井が牛丼だけで一ヶ月過ごしたという過去から来ているらしい)。

「早い! 安い! 美味い! 牛丼の三大スローガンは今こそ修正されねばならない。私はね、美味だから、おいしいからこそ牛丼に全てを捧げる決心をしたのだ。早くて安いからではない! 君のような早さと安さしか評価しない似非牛丼ファンは、私の生涯の敵だ!」
「君は私の甘美な時間を土足で踏みにじり、あまつさえ牛丼の名誉を汚した。ぞの行為は万死に値する!」

『うる星やつら』122話「必殺! 立ち食いウォーズ!!」では、メガネが立ち喰い蕎麦の何たるかについて以下のように講義している*1

「立ち食い蕎麦はかけに始まりかけに終わる。具の少なきはさらなり! つまるところ具は女の化粧と同じだ! 麺を引き立てる彩りに過ぎず、飽くまでも本質は麺! 真の立ち食い蕎麦哲学においては天蕎麦ですら邪道なのだ! なのに……なのにお前ときたら何だ!? その厚化粧の中年女みたいに何の脈絡も無くごてごてと具で固めた丼はぁ!? そんな訳の判らん蕎麦は、決して俺の目の前で食ってくれるな!」

うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』でハリアーが離陸したのは立ち食いそば屋マッハ軒だった。
ゲーム『サンサーラ・ナーガ』にも牛丼仮面が登場するほか、至る所に“はらたま”という立ち食いそば屋のチェーン店が登場する。この“はらたま”は『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』でサクラが開いた牛丼屋の名前だということを覚えている人もいるだろう*2

そして“立ち喰いのプロ”の存在である。こちらも押井作品の至る所に現れている。立ち食いのプロとはどういうものかは、やはり『うる星やつら』122話「必殺!立ち食いウォーズ!!」を見れば分かる。要するに出された食い物に何だかんだと難癖を付け、代金を払わずに去っていくということを生業としている者のことだ。中には依頼を受けてターゲットの店を食いつぶす者もいるとか。この話では、「ケツネタヌキの竜」「牛丼の牛五郎」「ホットドッグ・ジョー」「大盛りの政」「ハンバーガーの鉄」「回転焼きの甘太郎」「中辛のサブ」「クレープのマミ」「ケツネコロッケのお銀」という立ち食いのプロの名が出る。
トワイライトQ 迷宮物件 FILE538』では「(探偵をしても仕事がこないので)もう立ち食いのプロになるしか……」という台詞があり、『機動警察パトレイバー』初期OVA「二課の一番長い日」には遊馬の台詞「(甲斐について)まるで立ち食いのプロみたいなカッコで………」が出てくる。『紅い眼鏡』では天本英世?演じる「月見の銀二」という立ち食いのプロが登場し「ケツネタヌキの竜、牛丼の牛五郎……」と、立ち喰いのプロたちの名前を呼び上げている。『御先祖様万々歳!』では、最後には主人公の犬丸が立ち喰いのプロになって哭きの犬丸と呼ばれていた。

犬狼伝説』の後書きにはこのように書かれている。

 紙数もないので詳細な記述は避けるが、己の手掛ける作品に隙あらばこそと出没させるだけでは飽き足らず彼ら立喰いのプロの系譜を辿りつつ、日本の戦後史を新たな視点から再編すべく企図された虚構の歴史ドラマ『立喰い師列伝/全六巻』の企画を真剣に検討していたことや、その為の準備と称して架空の民俗学者・柳谷邦夫名義による『闇の系譜-立喰い師の世界』『立喰い師騎馬民族説』等の出版を目論で挫折したという噂は紛れもない真実である。それらの壮大にして奇怪な企画が実現しなかったのは、ただ単に彼の周囲に冒険主義的なプロデューサーが存在しなかったからに過ぎない(と彼は今も信じている)。

サンサーラ・ナーガ2』のムック本『ザ・コレクション サンサーラ・ナーガ2』には、直接このように書かれていた。

押井守のお言葉

  よく「どうして立ち喰いなんだ?」って聞かれるんですが、立ち喰いそば屋は、最初は冗談でやっていたんです。単に自分が立ち喰いが好きだったから。アニメでは、「うる星やつら」でやる前に「タイムボカン」シリーズでやったのが最初だったかな。赤べこのなんとかって、もうキャラクターの名前は忘れちゃったけど。
  確かニルスをやっているころだと思うけど、アルバイトでタイムボカンのコンテを切っていたんですよ。そのころ立ち喰いのプロっていう冗談を始めて使って、「悪党やめて立ち喰いのプロになります」って、それだけでコンテ一本書いちゃった。
  なんとなくその、時そばみたいに適当にしゃべりまくって、ただ食いして消えていくってキャラ。それをやっているうちにだんだん面白くなっちゃって、途中から本気になっちゃったんですね。
  それで、実はかなりシリアスな奴ですが、立ち喰い師ってのを主人公にしたシリーズを何度か企画したこともあるんです。立ち喰いそば屋を舞台にして、昭和っていうか、戦後史をやろうっていうもくろみなんですよ。高度経済成長を端境期にして、それまでは道端でめしを食っていた時代がかつてあったのに、それがある時を境に、高度成長の波に押されて、道端から野良犬が消えていく。
  でも今だって、銀座の町にも六本木にも、道一本入ると立ち喰いそば屋が生き残っている。それで、そこに巣くっている人間たちを主人公にして、戦後の横断史みたいなのをやってみたいなと。けっこう真面目に考えているんですよ。
  それが一度、ある雑誌で連載を始めるところまでこぎつけて、「立喰師列伝」なんてタイトルまでつけたんです。第1話まで書いたのかな。ところが結局、話が民俗学の方にいっちゃったんですよ。立ち喰い師ってなんだ、って話になって、香具師を調べたりしているうちに、山窩のほうに興味が行っちゃった。それが結局、最初の予定と違って、どんどん民俗学にのめり込んでしまったんです。
  ところが民俗学ってのは、出版社が一番嫌う世界なんです。なんたってタブーの塊だから。だって柳田国男の本でもまともに出版できないんだから。差別の塊なわけですよね。だからさすがに出版社がびびって「中止にしましょう」と言ってきたんです。
  いろいろ設定を考えて、自分としては燃えていたんだけど、やっぱりだめでしたね。ただ、まだあきらめたわけじゃない。いつかは実現したいと思ってます。虎視耽々と、けっこう資料も集めちゃったし、どこかでやらないと元をとれないから。(笑)
  そういうこともあって機会がある毎に立ち喰い師をあちこちに出没させようとしているんです。

立喰師のモデル

紅い眼鏡』では天本英世?が月見の銀二を演じていた。小説および映画『立喰師列伝』では、以下のような押井の知人が立喰師のモデルとなっている。

キャラクター名モデル
月見の銀二吉祥寺怪人?
ケツネコロッケのお銀兵藤まこ?
哭きの犬丸石川光久?
冷やしタヌキの政鈴木敏夫?
牛丼の牛五郎樋口真嗣?
ハンバーガーの哲川井憲次
フランクフルトの辰寺田克也?
中辛のサブ河森正治?

小説『立喰師列伝

上記のように、押井守が夢想していた企画が、小説としてザ・スニーカーで連載されたのがこの小説『立喰師列伝』である。この連載が実現したのは、当初の連載失敗当時、押井の担当だった人物が、ザ・スニーカー編集部内で昇進したということが大きく寄与しているらしい。だが、ザ・スニーカーという雑誌の中でこの『立喰師列伝』はあまりに異質で、連載中は徹底的に浮いていた。『立喰師列伝』はザ・スニーカーの2000年12月号、2001年8月号~2003年6月号に掲載された。

この小説は内容的には、立喰師が生きた昭和の時代を、立喰師を通して色々と語ってみるというものだ。昭和の時代を民俗学風に、食文化から東京における野良犬駆除の話まで、押井守が自分の言いたいことだけを延々と論じた本と言っていい。
内容的には、色々と他の押井作品に共通する部分が多いのも特徴。第四夜「自己否定の悲喜劇」に登場する話のモティーフは、『犬狼伝説』と 『BLOOD THE LAST VAMPIRE 獣たちの夜』に存在する。また文中の犬走一直という名は『機動警察パトレイバー』後期OVA「その名はアムネジア」に登場する人名。
第五夜「予知野屋解体」に出てくる丸輪零の「怒濤の秋」という歌は、『不帰の迷宮‐THE GREAT MAZE OF OVERKILL』が元ネタ。第七夜「ディズニーランドの亡霊」には『西武新宿戦線異状なし』がネタになっている点があり、また丸輪零人「ディズニーランドを夢見て」とは、『ゲーデルを夢見て~録音監督1993年』に由来している。

目次

映画『立喰師列伝

小説『立喰師列伝』の映画化作品である。
この冗談のような企画が通ったのは、石川光久?が「もし『イノセンス』がカンヌ国際映画祭で賞を取れなかったら、押井さんに好きな映画を1本撮らせる」と言ってしまったことが原因という話もある。

この映画は、登場人物の写真を撮影し、それをCGの人形に貼り付けて動かす『ミニパト』のようなペープサート状アニメーションで制作するという手法が採られ、スーパーライヴメーションと命名されている。
メインの登場人物は、小説『立喰師列伝』でキャラクターのモデルとなっていたのと同じ人物が演じる形となっており、さらに押井の知人が大量に(ロハで)出演している。これは、制作予算を抑えるのと同時に、「今まで自分が仕事を通じて関わってきた人々を、この映画で記録として残したい。それに、知っている人間じゃないと、CGでいじくるときにつまらない」(押井)という話である。

またこの映画公開後、『女立喰師列伝 ケツネコロッケのお銀 -パレスチナ死闘篇-』という外伝の短編低予算映画も制作されている。

関連サイト

関連商品

DVD

立喰師列伝 コレクターズセット (初回限定生産)
立喰師列伝 コレクターズセット (初回限定生産)

メイキングなど90分の映像が入ったスペシャルディスク、アフレコ現場で使用されたものを縮小複製したレプリカ台本、それと“豪華”ブックレット(64Pの予定)つき。


立喰師列伝 通常版
立喰師列伝 通常版

CD

「立喰師列伝-たちぐいし れつでん-」オリジナル・サウンドトラック
「立喰師列伝-たちぐいし れつでん-」オリジナル・サウンドトラック

映画『立喰師列伝』オリジナルサウンドトラック

書籍

立喰師列伝
立喰師列伝

小説『立喰師列伝


立喰師、かく語りき。
立喰師、かく語りき。

立喰師列伝』のメイキングを含む本(詳細


*1 この話は伊藤和典?の脚本となっている。
*2 「はらたま」という言葉は、サクラのお払いの台詞「(は~ら)いた~まえ(き~よ)た~まえ」から来ている。

Last-modified: 2006-10-28 (土) 01:30:12 (756d)
野良犬の塒