#author("2022-10-26T17:34:30+09:00;2021-10-12T20:57:31+09:00","","")
#author("2022-10-26T21:29:49+09:00;2021-10-12T20:57:31+09:00","","")
-始祖ベオルの子孫でベレン・エルハミオンの母方の祖父ベレン(Beren)については、[[ベレン(エメルディルの父)]]を参照してください。
-ゴンドールの統治権を持つ19代目の執政ベレン(Beren)については、[[ベレン(エガルモスの息子)]]を参照してください。
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* ベレン [#za713507]
#contents
** 概要 [#Summary]

|~カテゴリー|[[人名]]|
|~スペル|Beren|
|~その他の呼び名|片手のベレン、隻手のベレン(Beren One-hand) &br; ベレン・エルハミオン、ベレン・エアハミオン(Beren Erchamion)((エルハミオン(Erchamion)は[[シンダリン]]で「&ruby(せきしゅ){隻手};(One-handed)」の意味。)) &br; カムロスト(Camlost)(([[シンダリン]]で「&ruby(くうしゅ){空手};(Empty-handed)」の意味。))|
|~種族|[[人間]]([[エダイン]])|
|~性別|男|
|~生没年(1)|[[第一紀]](432)~†(466)(享年34)|
|~生没年(2)|[[第一紀]](469)~(503)(享年34)|
|~親|[[バラヒル>バラヒル(ブレゴルの息子)]](父)、[[エメルディル]](母)|
|~兄弟|なし|
|~配偶者|[[ルーシエン]]|
|~子|[[ディオル>ディオル(ベレンの息子)]](息子)|

** 解説 [#Explanation]

''ベレン・エルハミオン''、すなわち''隻手のベレン''として知られる[[人間]]([[エダイン]])の英雄。
[[エルフ]]の乙女[[ルーシエン]]と結ばれ、彼女とともに[[モルゴス]]の[[鉄の王冠]]から[[シルマリル]]の一つを取り戻した。その功業と運命は[[レイシアン]]という歌に歌われている。

>「たとえばベレンですけど、ベレンは自分が[[サンゴロドリム]]で[[鉄の王冠]]からあの[[シルマリル]]を取ることになろうとは、夢にも考えたことがありませんだ。それでも取ったんですから。それにそこは[[おらたちのいるところ>モルドール]]よりももっと悪い場所だし、危険ももっと多かったわけですだ。けど、これはもちろん長い話で、めでたしめでたしだけで終わらないで、そのあと不幸なことになり、そしてそれも越えちまうわけですだ――」((『[[指輪物語]] [[二つの塔>指輪物語/二つの塔]]』「キリス・ウンゴルの階段」 [[サム>サムワイズ・ギャムジー]]の言葉。))

[[エルロンド]]の母方の曽祖父であり、[[アラゴルン>アラゴルン二世]]の遠い祖先にもあたる。
『[[ベレンとルーシエン]]』などによると[[ダグモール]]という剣を使っていたとされる。

*** 前半生 [#k4a429c0]

[[ベオル家]]の最後の族長[[バラヒル>バラヒル(ブレゴルの息子)]]と妻[[エメルディル]]の息子として[[ドルソニオン]]に生まれる。

[[ダゴール・ブラゴッラハ]]の合戦で[[ベレリアンド]]北方が[[モルゴス]]の手に落ちた後、バラヒルは僅か12人の仲間とドルソニオンに踏みとどまって抵抗を続けた。ベレンはその[[12人の無宿者たち>ドルソニオンの無宿者たち]]の一人であった。
[[タルン・アイルイン]]の湖畔にあった彼らの隠れ処が[[サウロン]]配下の[[オーク]]の奇襲を受けた時、バラヒルたちは全員殺されたが、ベレンは偵察に出ていたため難を逃れた。夢の中で裏切り者である[[ゴルリム]]の亡霊から危機を知らされたベレンは急ぎ隠れ処に戻り、父バラヒルを埋葬すると、単身敵の後を追って、[[リヴィル]]の泉でオークの隊長を殺し、[[バラヒルの指輪]]を奪回した。
[[タルン・アエルイン]]の湖畔にあった彼らの隠れ処が[[サウロン]]配下の[[オーク]]の奇襲を受けた時、バラヒルたちは全員殺されたが、ベレンは偵察に出ていたため難を逃れた。夢の中で裏切り者である[[ゴルリム]]の亡霊から危機を知らされたベレンは急ぎ隠れ処に戻り、父バラヒルを埋葬すると、単身敵の後を追って、[[リヴィル]]の泉でオークの隊長を殺し、[[バラヒルの指輪]]を奪回した。
以後、ベレンは4年の間ただ一人戦い続け、その勲は[[ベレリアンド]]中に広まった。この放浪時にベレンは鳥獣を友とし彼らに助けられたため、以後肉食をせず、モルゴスに仕えるものを除いていかなる殺生もしなくなったという。

しかしとうとう[[サウロン]]の追跡を受けたベレンは[[ドルソニオン]]から脱出せざるを得なくなり、そこで[[人間]]が誰一人足を踏み入れたことがない[[エルフ]]の[[隠れ王国]][[ドリアス]]に行ってみることを思いつく。
彼は恐怖の地[[ナン・ドゥンゴルセブ]]を縦断し、その地に巣食う[[蜘蛛]]をはじめとした怪物と戦い抜いた。この凄絶を極めた旅は彼の功業の中でも特筆すべきものの一つだったが、その時の恐怖があまりにも大きなものであったため、自らは決して語ろうとはせず、その足取りは謎に包まれている。
ついに恐怖と死を潜り抜けたベレンは、かつてドリアスの王妃[[メリアン]]が予言した如く、大いなる運命に導かれて[[魔法帯]]の惑わしと迷路を突破し、ドリアスへたどり着いた。

>「レイシアンの歌」に歌われているところでは、ベレンは、辛い歳月を重ねた人のように、髪には霜を置き、背も屈みがちに、よろめくようにドリアスに入ってきたと言われていている。かれの旅の苦しみは、それほどまでに大きかったのである。((『[[シルマリルの物語]]』「ベレンとルーシエンのこと」))

*** ルーシエンとの出会い [#g697b63e]

>きびしい山から、ベレンはおりて、道ふみ迷い、さまよう森辺、
エルフの川のとどろくあたり、ひとり嘆いて、たずねていけば、
ヘムロックの葉蔭にかいま見た、黄金の花々を裳と袖にさし、
髪を影のようになびかせて、おどる美しい乙女の姿。((『[[指輪物語]] [[旅の仲間]]』「浅瀬への逃走」 [[レイシアン]]の一節。))

夏の夕の[[ネルドレス]]の森に迷い込んだベレンは、そこでひとり躍る[[ルーシエン]]に生き逢う。
その美しさにたちまち魅せられたベレンだが、彼は口をきくことも動くこともできず、ルーシエンは視界から消え去り、ベレンは秋が去り冬が過ぎても狂おしく彼女の姿を追い求め続けた。そして春になり、歌い出したルーシエンの声に呪縛を解かれたベレンはついに彼女を[[ティヌーヴィエル]]と呼び、その呼び声に立ち止まったルーシエンの許に走り寄る。
こうして二人は愛し合うようになり、再び夏になったネルドレスの森を二人は逍遥して過ごした。この時の二人ほど大きな喜びを味わった者は現在に至るまで他にいないと言われている。

だが二人の仲は伶人[[ダエロン]]を通じてたちまちルーシエンの父で[[ドリアス]]の王である[[シンゴル]]の知るところとなり、[[人間]]を蔑視していたシンゴルはこれに大いに怒る。
シンゴルはルーシエンの愛に折れ、一度はベレンを殺すことも投獄することもしないと誓ったが、ベレンに対してはルーシエンと結ばれたくば[[シルマリル]]の一つを[[モルゴス]]から奪ってくるようにと難題を課した。
人々はシンゴルが誓いを違えることなくベレンを葬り去ろうとしていることに気づいたが、ベレンは笑ってこの難題を引き受けた。

*** シルマリル探求 [#u2fb590b]

>「岩も鋼も、モルゴスの火も、エルフ諸王国の勢威を一つになしても、わたくしの望みとするこの宝物をわたくしから隔てることはできませぬ。王の娘御ルーシエン殿こそ、この世のすべての子らのうち最も美しい方であられます故」((『[[シルマリルの物語]]』「ベレンとルーシエンのこと」 [[シンゴル]]へ向けたベレンの言葉。))

[[ドリアス]]を後にしたベレンは[[ナルゴスロンド]]に向かい、[[バラヒルの指輪]]を恃みにナルゴスロンドの王[[フィンロド]]から助力を引き出すことになる。
フィンロドはかつて[[バラヒル>バラヒル(ブレゴルの息子)]]に立てた誓いに従ってベレンを助けようとしたが、そこにいた[[ケレゴルム]]と[[クルフィン]]は[[フェアノールの誓言>フェアノール#Oath]]に突き動かされてそれを妨害。そのためナルゴスロンドの臣民はフィンロドに背き、フィンロドは王位を捨ててわずか10人の従者を伴ってベレンの探索行に同道することになった。
一行は[[シリオンの山道]]から北に向かおうとして[[サウロン]]に察知され、[[トル=イン=ガウルホス]]の土牢に幽閉される。サウロンは一行の正体と目的を聞き出すため、一人ずつ[[巨狼]]に喰わせていった。ベレンの番が来た時、フィンロドは彼を庇って巨狼と相打ちになり命を落とした。

絶望の淵にいたベレンを救い出したのは[[ルーシエン]]であった。
ベレンの危機を感じ取ったルーシエンは[[ドリアス]]を抜け出して後を追い、ケレゴルムとクルフィンの奸計も逃れると猟犬[[フアン]]の助力を得てガウルホスの島まで到達。そこで歌うルーシエンの声を聞いたベレンは[[ヴァラキルカ]]を題材にした自作の挑戦歌を歌って応え、ベレンが囚われていることを知ったルーシエンはフアンと共に[[巨狼]]たちを倒し、ついにはサウロンをも打ち負かして退散させる。
破れた土牢の中でベレンとルーシエンは再会し、二人は自由の身となった。

[[ブレシル]]の森では再三[[ケレゴルム]]と[[クルフィン]]の襲撃に遭うも、ベレンの膂力とフアンの働きによってこれを退け、ベレンはクルフィンから短剣[[アングリスト]]を取り上げる。この時、ベレンはクルフィンの放った矢からルーシエンを庇って傷ついたものの、フアンが採ってきた薬草とルーシエンの愛によって癒やされた。
そこでベレンはルーシエンを探索行に同道させるわけにはいかないと考え、一人[[アンファウグリス]]までやってきて別離の歌を歌う。だが後を追ってきたルーシエンがそれに応え、フアンの助言によってもはや二人の宿命は一つに織り成されていることを悟ったベレンは、共に難題に臨むことを決心する。

[[ドラウグルイン]]と[[スリングウェシル]]の皮衣を被って変装した二人は、ついに[[アングバンド]]にたどり着き、門番の狼[[カルハロス]]もルーシエンの力によって眠らせると、地の底にある[[モルゴス]]の玉座までたどり着いた。そこでルーシエンは魔力を尽くしてモルゴスとその廷臣たちを眠らせ、その隙にベレンは[[アングリスト]]を使ってモルゴスの[[鉄の冠]]から[[シルマリル]]の一つをこじり取った。
そこでベレンはシルマリルの全てを取り戻そうと考えたものの、それはシルマリルの運命ではなく、アングリストの刃は折れて破片がモルゴスの頬に突き刺さった。恐怖に駆られて逃げた二人を門前で待ち受けていたのは、目を覚ましたカルハロスであった。ベレンは聖なる光が怪物を怯ませることを期待して取り戻したシルマリルを突き出したものの、カルハロスは貪欲さに駆られてベレンの右手ごとシルマリルを噛み切って飲み込み、その光に焼かれて狂乱して走り去った。

二人は[[大鷲]]の[[ソロンドール]]に救われてアングバンドから逃がれ、[[ドリアス]]の国境に帰り着いたが、ベレンはカルハロスの毒牙にやられて生死の境をさまよっていた。ルーシエンの懸命の治療によってベレンは再び目を覚まし、二人はかつてのように春の森を逍遥した。以来、ベレンは''エルハミオン''「隻手」の名で知られるようになった。
[[シンゴル]]は難題の成就をベレンに問い質したが、ベレンは失った右手を掲げて「空手」を意味する''カムロスト''を名乗り、これにシンゴルの心は和らげられた。かくして難題の成就はなり、シンゴルは二人の仲を認めてその御前でベレンとルーシエンは婚約を果たした。

*** 死と生還 [#vfe4b0b3]

しかし、[[シルマリル]]を飲み込んで狂乱した[[カルハロス]]が[[魔法帯]]を突破して[[ドリアス]]に攻め入っており、[[シンゴル]]は狼狩りを決行。それに同行したベレンは、カルハロスの襲撃からシンゴルを庇って致命傷を負った。
カルハロスは[[フアン]]と相打ちになって斃され、[[マブルング>マブルング(ドリアス)]]がカルハロスの腹を裂くとほとんど焼き尽くされた腸の中に無傷のベレンの右手に包まれたシルマリルが発見された。マブルングが取ろうとすると、もはやベレンの手は消失し、シルマリルだけが取り出された。マブルングからシルマリルを受け取った瀕死のベレンはこれシンゴルに捧げ、真の難題の成就がなされた。
ベレンは[[ルーシエン]]にかき抱かれ、口づけされて息絶えた。だがその時、ルーシエンは[[大海]]のかなたで自分を待っているよう、ベレンに告げていた。

ベレンの霊魂は[[外なる海]]の岸辺に留まり、ルーシエンの霊魂は[[マンドスの館]]までやってきて、[[子ら>イルーヴァタールの子ら]]の悲嘆を歌にして歌って[[マンドス]]の心を動かした。それゆえ、二人はついにこの世の涯なる岸辺で再び相会った。
マンドスは[[マンウェ]]に相談し、マンウェは心の裡に[[イルーヴァタール]]の啓示を求めた。その結果、ルーシエンは[[エルフ]]の運命である不死の命を捨て、ベレンと同じ[[死すべき運命]]に組み込まれることとなり、二人は束の間[[中つ国]]に蘇って夫婦として時を過ごすことになった。

中つ国に戻ったベレンとルーシエンはシンゴルと[[メリアン]]に暇を告げると、[[トル・ガレン]]に去り、それゆえその地は「生ける死者の国」を意味する[[ドル・フィルン=イ=グイナール]]と呼ばれるようになった。
この地で二人の間には息子の[[ディオル>ディオル(ベレンの息子)]]が生まれた。また、シンゴルが殺されてシルマリルを嵌め込んだ[[ナウグラミール]]の首飾りが[[ノグロド]]の[[ドワーフ]]に略奪された時、ベレンは[[緑のエルフ]]達を率いてこれを破り、ナウグラミールを取り戻してルーシエンの許にもたらした。ナウグラミールのシルマリルとルーシエンの力により、かの地は束の間[[ヴァリノール]]と見紛うほど美しい地になったという。

やがてシンゴルの世継としてドリアスの王となったディオルの許に使者が来て、シルマリルの付いたナウグラミールをもたらした。そこでディオルは父と母が今度こそ本当に死んで、[[人間の宿命>死すべき運命]]に従い[[世界の圏外>世界の圏]]に去ったことを悟った。
帰ってきたベレンと再び言葉を交わした人間はおらず、ベレンとルーシエンがこの世を去るのを見た者もなく、ついに二人が身を横たえた場所に墓標を立てた者もいなかったという。

>運命のみちびく道は、長かった。
冷たい灰色の石の山を越え、
鉄の広間を通り、お暗い戸口をくぐり、
朝の来ない夜の森をぬけ、
別れの海にへだてられたが、
二人はついに、ふたたび出会った。
して、遠いそのかみ、二人はともに、
歌いながら、嘆きも知らず森へ去って行った。((『[[指輪物語]] [[旅の仲間]]』「浅瀬への逃走」 [[レイシアン]]の最後の一節。))

** トールキン夫妻との関係 [#ra501117]

[[ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン]]は、自分の妻[[エディス>エディス・トールキン]]を[[ルーシエン]]に見立てており、ベレンとルーシエンの物語は二人が経験した苦難に基づいている。
トールキンはエディスが死ぬと、その墓にルーシエンの名を刻ませた。その後、彼自身が死去したとき、トールキンの墓にはベレンの名が刻まれた。

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