* シルマリル [#icafabd6]
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** 概要 [#Summary]

|~カテゴリー|[[物・品の名前]]|
|~スペル|Silmaril|
|~その他の呼び名|シルマリルリ(Silmarilli)((複数形))|

[[フェアノール]]が作った三つの大宝玉の名。[[第一紀]]の[[中つ国]]における[[エルフ]]たちと[[モルゴス]]との戦い([[宝玉戦争]])の中心となった。

** 解説 [#Explanation]

*** シルマリルの創造 [#xa82e996]

[[二つの木の時代]]に、[[フェアノール]]によって三つのシルマリルが作られる。シルマリルには、[[月>月(天文)]]と[[太陽]]が造られる以前に世界を照らしていた[[二つの木]]([[テルペリオン]]と[[ラウレリン]])の生きた光が込められており、天空の星々の如く光り輝いていた。その光はダイアモンドの結晶のようでありながらダイアモンドよりも硬く、何人も傷つけることの出来ない器に宿っていたが、これがいかなる物質から造られていたのかは[[フェアノール]]の他に知り得る者はいないという。

フェアノールの最高傑作であり、その美しさに驚嘆しない者は一人としていなかった。
シルマリルは[[ヴァルダ(エルベレス)>エルベレス]]によって清められ、死すべき者、不浄の者、悪しき者がシルマリルを手にするとその身を焼かれるようにされた。
また[[マンドス]]は、'''大地も、海も、空気も、[[アルダ]]の運命はすべてシルマリルの中に閉じ込められている'''と予言した。

*** モルゴスによる強奪 [#zc93ba84]

[[メルコール]]はシルマリルの輝きを妬み、[[二つの木]]を殺害した後に[[フェアノール]]の父親[[フィンウェ]]を殺して三つのシルマリルを奪うと、[[至福の国(アマン)>アマン]]から[[中つ国]]に持ち去った。彼は居城[[アングバンド]]に戻るとシルマリルを[[鉄の冠]]に填め込み、それを頭上に戴いて「世界の王」を僭称した。
[[ヤヴァンナ]]はシルマリルに込められた光さえあれば瀕死の二つの木を蘇生させることができると訴えたが、フェアノールは自ら進んでシルマリルを差し出すことを拒否する。その直後にメルコールによるフィンウェ殺害とシルマリル強奪の報がもたらされた。

フェアノールはメルコールを「黒き敵」の意である[[モルゴス]]と呼んで、復讐とシルマリル奪還のための中つ国への帰還を宣言し、[[七人の息子>フェアノールの息子たち]]と共に[[フェアノールの誓言>フェアノール#Oath]]と呼ばれる呪われた誓言を立て、他の[[ノルドール]]も扇動して[[中つ国]]に帰還した。フェアノールは中つ国に帰還して間もなく[[ダゴール=ヌイン=ギリアス]]で戦死したが、[[フェアノールの息子たち]]は誓言に縛られ続けることになる。
中つ国に帰還したノルドールの公子達はそれぞれ王国を築いてモルゴスと戦ったが、アングバンドの守りを打ち破ることはできなかった。

*** ベレンとルーシエンによる奪還 [#t3ed9a40]

シルマリルのうち一つは死すべき[[人間]]の[[ベレン>ベレン(バラヒアの息子)]]が手にすることになった。

[[人間]]である[[ベオル家]]のバラヒアの息子ベレンは、相愛の仲となった[[ルーシエン]]との結婚の許しを、その父で[[ドリアス]]の王である[[シンゴル]]に請う。人間にルーシエンを与えるつもりなどなかったシンゴルは、ベレンを死に追いやろうと、ルーシエンとの結婚の対価としてシルマリルを要求する。だがベレンはルーシエンと共にその探索の旅を行い、[[アングバンド]]に潜入してモルゴスの玉座の前まで行きついた。ルーシエンがモルゴスと召使いたちを眠らせている間に、ベレンはモルゴスの[[鉄の冠]]から、[[アングリスト]]を使ってシルマリルのうち一つを取ったが、彼の手は焼かれなかった。
その直後、アングバンドの門番である[[巨狼]][[カルハロス]]に、ベレンはシルマリルごと右手を食われてしまった。だがカルハロスはシルマリルに腸を焼かれ狂乱して走り去った。右手を失ったものの、ベレンはルーシエンと共に[[大鷲]]に救われて[[ドリアス]]のシンゴルの元に戻る。二人の偉業を知ったシンゴルは、彼らの婚約を認めた。
しかしベレンは、狂気に駆られたままドリアスに侵入した[[カルハロス]]の狩りに同行した際、シンゴルを庇って致命傷を負った。カルハロスは猟犬[[フアン]]に倒され、ドリアスの狩猟長[[マブルング>マブルング(ドリアス)]]によって、カルハロスの腹からシルマリルが取り出された。マブルングよりシルマリルを渡されたベレンは、これをシンゴルに捧げて息絶えた。
こうしてベレンは一度死んだが、彼を死から連れ戻すべく[[西海>大海]]の彼方まで後を追ってきたルーシエンが、自分のエルフとしての不死の命と引き換えに[[マンドス]]の許しを得たことでベレンは復活し、ベレンとルーシエンは[[中つ国]]へと帰還した。二人は一度ドリアスでシンゴルに再会した後、[[オッシリアンド]]の[[トル・ガレン]]に住まい、この地で息子[[ディオル>ディオル(ベレンの息子)]]が生まれた。

*** 奪還されたシルマリルを巡る悲劇 [#b55be2f0]

その後もシルマリルは[[ドリアス]]の[[シンゴル]]の元にあったが、[[フーリン>フーリン(ガルドールの息子)]]が[[ナルゴスロンド]]から、[[ドワーフ]]が作った首飾り[[ナウグラミーア]]をシンゴルの元に持ってくると、ナウグラミーアとシルマリルを一つの宝にする細工を、シンゴルは[[ノグロド]]の[[ドワーフ]]に依頼した。ノグロドのドワーフたちはこれを引き受けたが、仕事が成されると彼らはナウグラミーアとシルマリルの権利を主張。シンゴルが拒んでドワーフたちを挑発すると、ドワーフたちはシンゴルを殺して宝を奪い、逃げ去ろうとした((この諍いの原因については後世色々なことが言われており、ドワーフは当時からシンゴルが報酬を拒んだのが原因であると主張していた。主にエルフの史料から編纂されたものである[[シルマリルの物語]]の本文では、このドワーフの主張は偽りだとされている。後に[[ガンダルフ]]はエルフとドワーフの不和について「どちらの話も聞いている」と述べてあえて判断を下すことをしなかった。))。この時はドワーフたちはドリアスの兵に倒され、ナウグラミーアとシルマリルは奪還されたが、シンゴルの死によってドリアスの命運が尽きようとしていることを知った王妃[[メリアン]]が悲しみにくれて[[中つ国]]を去ったことで、ドリアスを守っていた[[魔法帯]]は力を失う。一方で、紛争の発端を知らぬまま、ただ殺害された身内の復讐に燃える[[ノグロド]]のドワーフたちの襲撃を受けて、ドリアスは荒廃。シルマリルは再びドワーフに奪われてしまった。しかし、[[メリアン]]が去る前に出した最後の命令によって遣わされた使者により、[[ベレン>ベレン(バラヒアの息子)]]が事件の知らせを聞く。ベレンは息子[[ディオル>ディオル(ベレンの息子)]]と共に[[オッシリアンド]]の[[緑のエルフ]]たちを率いて、[[ノグロド]]に帰還しようとするドワーフ達を襲い、シルマリルを奪い返す。彼は[[ルーシエン]]のためにこれを[[トル・ガレン]]に持ち帰った。トル・ガレンの地は束の間ではあったが、シルマリルとナウグラミーアによって増したルーシエンの力によって、[[アマン]]と見紛う程に美しい地となったという。

やがてベレンとルーシエンが本当に世を去ると、シルマリルはシンゴルの世継ぎとなって[[ドリアス]]を治めていた[[ディオル>ディオル(ベレンの息子)]]の元に送られた。[[フェアノールの息子たち]]はこれを知るとディオルにシルマリルの引渡しを要求したが、ディオルは一切返事をしなかった。フェアノールの息子たちは[[ドリアス]]を襲撃し、ディオルを殺害した。しかしシルマリルはディオルの娘[[エルウィング]]が持って[[シリオンの港]]へ逃れた。

*** エアレンディルの航海と、星となったシルマリル [#s64a0429]

やがてエルウィングは[[エアレンディル>エアレンディル(トゥオルの息子)]]と結婚する。エアレンディルは[[中つ国]]の[[エルフ]]と[[人間]]への慈悲と助力を請うため、西方の[[至福の国>アマン]]へと船出したが、エルウィングは留守を守っていた。この間に[[フェアノールの息子たち]]から再びシルマリルを引き渡すよう要求があったが、エルウィングとシリオンの港の住民たちはシルマリルを手放そうとはせず、[[フェアノールの息子たち]]は今度はシリオンの港を襲撃してこれを滅ぼした。エルウィングはシルマリルを抱えて海に身を投げた。

だがエルウィングは[[ウルモ]]の手によって波間から抱き上げられ、鳥の姿に変えられてエアレンディルの船[[ヴィンギロト]]へと辿り着く。シルマリルの光に導かれたヴィンギロトは[[惑わしの島々]]と影の海を突破して至福の国へと到達し、エアレンディルによる[[ヴァラール]]への慈悲と助力を請う願いは聞き届けられた。だがエアレンディルは中つ国に戻ることは許されず、[[ヴィンギロト]]に乗って世の終わりまで天空を航行する運命が課せられ、彼の持つシルマリルの光は中つ国の住民に希望を与える[[明星>エアレンディルの星]]として空に輝くことになった。

*** 残された二つのシルマリルの運命 [#k5bfe8f5]

残った二つのシルマリルはモルゴスの元に残っていたが、[[怒りの戦い]]によってモルゴスが滅ぼされると、シルマリルは[[鉄の冠]]から取り外され、[[エオンウェ]]が預かった。[[フェアノールの息子たち]]の生き残りである[[マイズロス]]と[[マグロール]]は、残り二つのシルマリルをエオンウェに要求したが、エオンウェはシルマリルに対する彼らの所有権は[[同族殺害]]によってもはや消滅したと伝え、二人に[[ヴァリノール]]に戻って判決を受けるよう命じた。マイズロスとマグロールは彼ら自身倦み疲れていたが、なお[[フェアノールの誓言>フェアノール#Oath]]に呪縛されていたため、エオンウェの営舎に忍び込み、衛士を殺してシルマリルを盗み出そうとした。彼らの行いはその場で見咎められたが、エオンウェは二人を殺すことを禁じたため、マイズロスとマグロールは戦わずして遠くへ逃れ、銘々が一つずつシルマリルを受け取った。
だが彼らはすでに正統な所有者とは認められず、シルマリルは彼らの手を焼いた。マイズロスは絶望してシルマリルを持ったまま火の燃え盛る大地の裂け目に身を投じて死に、マグロールはシルマリルを海中に投じた後、海辺をさまよいながら[[苦しみと悔恨の歌>ノルドランテ]]を歌い続け、二度と[[エルダール]]の間には戻らなかったという。

かくてシルマリルは一つは天空に、一つは世界の中心に燃える火の中に、そして一つはわたつみの深き底に永住の場所を見出し、いつの日か[[世界>アルダ]]が造り直される時まで再び一つ所に集まることはなくなった。

*** その後のシルマリルの光 [#gec46277]

今となっては、シルマリルの輝きは[[エアレンディルの星]]にのみ見出される。

[[第二紀]]のはじめ、[[エダイン]]の生き残りはエアレンディルの星の光に導かれて航海し、エレンナすなわち「星に向かう国」と呼ばれる[[ヌーメノール島>ヌーメノール]]に到達した。

また、『[[指輪物語]]』で[[フロド・バギンズ]]が[[ガラドリエル]]から贈られた[[玻璃瓶]]は、ガラドリエルの水鏡に映じたエアレンディルの星の輝きを集めたものであり、つまりシルマリルの輝きである。

>「 …… おや、旦那、おら、今まで一度も考えつかなかったな! おらたちの持ってるのは――いま持ってるのはそれの光の一部ですだよ、奥方から旦那がおもらいになったあの星の玻璃瓶にはいってるのは! おやおや、考えてみれば、おらたちもまだ同じ話の中にいるっちゅうこってすだ。話はまだまだ続いてますだねえ。えらい話というのはおしまいにならないんですかね?」
「そう、お話としては決しておしまいにならないね。」と、フロドがいいました。「だけどその中の人物たちは登場してき、やがて自分の役割がすむと行ってしまうんだよ。 …… 」((『[[指輪物語]] [[二つの塔]] 下』「八 キリス・ウンゴルの階段」))

[[第三紀]]の終わりに[[指輪所持者]]たちが[[西方>アマン]]に船出する時、フロドは玻璃瓶をたずさえて行き、見送る[[サム>サムワイズ・ギャムジー]]たちの目からは船上にある玻璃瓶の光がちらちらと明滅し、やがて消えていくのが見えたという。

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