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ロード・オブ・ザ・リング 字幕問題について(1/13)

The Lord of The Ringsの「言葉」について

映画の字幕の話に入る前に、原作小説『指輪物語』の翻訳について説明する。

『指輪物語』(The Lord of The Rings)の作者であるジョン・ロナルド・ロウエル・トールキンは言語学者であり、英文学の教授であった。彼が最初に行ったことは物語を作ることではなく、「言葉を作る」事だったのである。
彼が子供の頃から行っていた個人的な遊びに、「自分のオリジナルの言葉を作る」というものがあった。子供なら誰でもそのような、特定の言葉に別の隠語を当てはめるという遊びをするものだが、トールキンはそれに熱中し、完全に独自の言語体系を作り上げた。発音法、文法や活用の変化、複数の種類の文字による表記法など、本当に日常会話が可能なほどの言語体系を作ったのである。子供の頃から言語学に興味を持ち、やがて言語学者になる人物ならではである。

その過程の中で彼は、言葉を詳細に作るには、言葉に歴史が必要だと気が付いた。言葉に歴史を作るには、その言葉を使う民族が必要だ。こうしてトールキンは自分が作った言葉を使わせる民族として、エルフを生み出したのである。その後彼のエルフ語は更に高度に複雑になり、クゥエンヤとシンダール語という二つの言語に分かれた(これは現在の英語とラテン語の関係に似ている)。さらにトールキンは、エルフの神話を作り上げていった。

トールキンは、母国のイギリスには神話がないと感じていた。世界各国に北欧神話、ギリシャ神話などがあるのに対し、イギリスには自国独自の神話がない。トールキンは、イギリス独自の神話を作ることを始めたのである。その結果、世界創造から始まる壮大な歴史が作り上げられていった。『指輪物語』とは、その世界の中で繰り広げられる物語の一つに過ぎないのである。

このように、元々『指輪物語』が「言語学的興味」から始まったものであるため、トールキンは作中の言語の扱いには特に注意を払った。二種類のエルフ語の他に、ドワーフ語、ローハン語、アドゥナイク語、暗黒語という言葉を作り出していき、作中に盛り込んだ。
トールキンは、『指輪物語』の舞台である中つ国は、かつての地球だと想定していた。そして『指輪物語』は、かつて地球で実際に起こったことなのだと。そのためトールキンは次のように想定した。「『指輪物語』の“原書”である『西境の赤表紙本』は西方共通語で書かれていた。それを私が“発見”し、“英語に翻訳”して世に送り出したのだ」と。
そのため、西方共通語とその他の言語は明確に区別されなければならなかった。『西境の赤表紙本』は、ホビットによって書かれた。物語の主人公であるホビットが使う言葉は西方共通語であり、その他の言語、例えばエルフ語やドワーフ語は見知らぬ言語である。『指輪物語』の読者はホビットの視点になる。ゆえに読者にとって、物語の中で西方語が使われていた場合は馴染み深い言葉だと感じられるのに対し、その他のエルフ語やドワーフ語など言語は、明らかに違う言語であると感じられなければならない。なおかつ我々が、意味は判らなくてもフランス語とドイツ語の違いが感じられるように、エルフ語とドワーフ語の違いも感じられなければならない。
そのためトールキンは、『指輪物語』が英語から諸外国語に翻訳されるにあたり、詳細な“翻訳上の注意”を作成した。単純に言うと、小説の中で英語で書かれている部分はそれを可能な限り翻訳し、その他の言語は発音通りに記さなければならない、というものである。

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