沖縄の米海兵隊と中台紛争について

既に色んなところで議論され、色んな人が語っている普天間基地問題。私よりもずっと詳しい人が色々と説明されているので、今更私が……とも思いましたし、1から10まで書く知識も私にはないのですが、少しだけ書きたいと思います。

ひとつ私が気になった意見があります。それは「沖縄の海兵隊は『中国が台湾に侵攻したとき、アメリカが台湾を救援に行くため』と言われているが、実際にはアメリカが中台紛争に介入することはあり得ない。従って米海兵隊が沖縄にいる必要はない」というものです。確かに現在の中国と台湾、そしてアメリカと中国の経済面における密接な結びつきを見ると、この3カ国が紛争状態に突入するということはないように見えるかもしれません。

ですがまず中国と台湾の関係に関して言えば、「10年後、20年後にどうなっているかわからない」という点があります。現在は下火になっている台湾独立運動ですが、これが何かの拍子に再燃する可能性は十分あります。そして台湾独立運動が本格化したら、中国が介入してくる可能性は高くなります。

そして次に「アメリカは台湾を援助するのか?」という点について。正直なところ、これはかなり不透明です。アメリカには台湾関係法がありますが、この法律の解釈は曖昧ですし、歴代のアメリカ大統領でも「中国が台湾に直接侵攻したら、必ずアメリカは台湾を防衛するために戦う」と腹を決めていた人はいないかもしれません。ですがアメリカにとって重要なのは「台湾を防衛するために戦うことができる」という能力と選択肢を残しておくことです。アメリカでは4年に1回選挙が行われ、そのたびに大統領が誰になるかわからず、それと同時に政策が変わる可能性があります。そのため、どんな大統領が誕生しても、その大統領が台湾防衛を命じてもいいように、アメリカ軍は間違いなく「中台戦争への介入作戦シナリオ」を用意しています。その時に真っ先に派遣されることになるのは、沖縄にいるアメリカ海兵隊です。アメリカ海兵隊は、他のアメリカ陸海空軍よりも「即応性を非常に重視した軍」であり、紛争が起こったら真っ先に派遣される軍だからです。

この状態は中国から見ると「台湾を攻撃したら、アメリカが介入してくるかもしれない」ということになります。「かもしれない」という疑念があるだけでも、中国にとっては「台湾侵攻」という賭に出たときのリスクが高くなるということであり、中国は台湾を攻撃することをためらいます。これがいわゆる「抑止力」です。

では、もし沖縄からアメリカ海兵隊が撤退したら? 中国は「台湾を攻撃しても、アメリカが介入してくる可能性は限りなく低い」と確信を持つようになり、台湾に対してより攻撃的な態度を取ることができます。一方で「アメリカはまず助けてくれない」と孤立感を深めた台湾では「核武装することで、中国の侵攻を思いとどまらせるしかない」という意見が大きくなることは間違いないでしょう。結果として、中台間の緊張はより高まることになります。こうなると日本も他人事では済ませられません。

以上のように、「中国が台湾に侵攻したとき、本当に沖縄の海兵隊が出動するのか?」ということよりも、「中国が台湾に侵攻したとき、アメリカ海兵隊が介入できる状態が維持されている」ことが重要です。そのためには台湾、朝鮮半島、フィリピンの中間地点にあり、そのどこで問題が発生してもすぐに部隊を派遣できる、沖縄に海兵隊がいる必要があるということになります。

他にも中台紛争について細かい点を補足したらきりがありませんが、とりあえずここまでにしておきます。