F-22ラプターの日本導入と、日本の対北朝鮮政策について

以前、F-15SEについて書きましたが、最近の当サイトのアクセス解析を見ると「F-15SE」「サイレントイーグル」の単語で検索してくる人が多く、やはり注目度の高さが伺えます。

そこでまた空自F-X(次期主力戦闘機)についての話を。今回はF-22について

F22輸出解禁支持 イノウエ議員 売却価格は247億円 - MSN産経ニュース

一時は、アメリカのゲーツ国防長官が生産打ち切りの方針を発表したため、日本への輸出も絶望的と思われたF-22ですが、米議会の一部の反対により、再び日本への輸出の可能性も出てきました(ちなみに現在はどうかわかりませんが、オーストラリア政府もF-22の導入に興味を示していました)。

F-22の輸出解禁支持派は主にF-22産業の地元議員で、F-22の生産を続けることによって、雇用が維持されることを期待しています(良く言えば「自分を選出した地元の選挙民のために働く議員」悪く言えば「地元に利権を誘導しようとする議員」)。

さて、空自がF-22を導入したがっている理由ですが、とにかくF-22の圧倒的な性能の高さにあります。F-22というと「ステルス戦闘機」ということにばかり注目が集まりますが、運動性能や速度、空対空兵装搭載能力などその他の点でも“最強”の言葉にふさわしい戦闘機になっております。これは同じく「ステルス戦闘機」として知られているF-35と比較してもずっと高い能力を保持しています。

日本は今まで、F-4F-15など、その時代時代の米国製最新鋭戦闘機を(高価になったとしても)導入してきました。これは“数”に対して“質”で対抗するという考えによるものです。F-22を導入しておけば、仮に中国やロシアが(現在噂されているような)ステルス戦闘機を導入してきたとしても、当分は安心と言えます。

しかし仮にF-22が輸入できたとしても、問題点が2つあります。

価格の高さ

先の記事を引用しますと、

(F-22を)輸出した場合、日本への売却価格は1機約2億5000万ドル(約247億円)程度になると伝えていたことを報じた。

米軍は1機約1億4000万ドルで調達している。日本に輸出する場合、輸出仕様にするための設計・改造費などを含め約1億ドルを上乗せした格好だ。7-9年で納入可能という。

これだけを見ると「足下見やがって」と思われるかもしれません。“輸出仕様にするための設計・改造費”ですが、これは日本独自の兵装(日本製の空対空ミサイルなど)を搭載できるようにすることや、日本の防空指揮管制システムに対応できるようにするため改造する必要があるというのがあります。さらに軍事機密が国外に漏れるのを防ぐため“最新鋭の”技術を取っ払って、“性能の低い”技術にすり替えるための費用も含まれているでしょう(言い方を変えると、高値で低性能版を売りつけられるというわけですが)。

ライセンス生産が困難

今まで日本は、F-4、F-15などを(最初期に導入した数機を除き)ライセンス生産を行ってきました。これはライセンス生産を行うことによって、国内の戦闘機開発技術の育成を図りたいという考えがあります。ところがF-22は輸出だけでも困難な状況ですから、日本によるライセンス生産が認められることはまずあり得ないでしょう。

日本の戦闘機の生産は、F-4EJやF-15Jといったライセンス生産、そして国産のF-1、F-2も含めて三菱重工が行ってきましたが、F-22のライセンス生産が認められないとなると、(F-2の生産終了が決定しているため)三菱の戦闘機部門は“作るものがなくなってしまう”ということになります。そうなると生産ラインを閉じなければなりませんが、生産ラインを閉じると蓄積してきた技術が失われる危険が高いですし、生産ラインを復活させるのも困難です。

また、F-22の導入を完全に輸入に頼ると、故障が発生した際、日本では修理ができなくなる可能性も上がってしまいます。

F-15SEとタイフーンの比較

ではここで、空自F-Xの有力候補として上がっている別の機種、F-15SEとタイフーンに絞って比較したいと思います(F-35については後述)。

まず価格の点からすると、(手元の資料をぱっと捜しても具体的な数字が見つかりませんでしたが)タイフーンがもっとも有利と思われます。F-15SEはボーイング社の発表では1機1億ドルとなっていますが、F-15SEはまだ実証機の飛行も行われていません(一方タイフーンは既に運用が行われています)。F-15SEの性能がボーイング社の発表通りになるかも未知数であり、将来的にコストが上がる可能性もあります。

またライセンス生産の点を取っても、タイフーンが有利です。タイフーンは既に日本でのライセンス生産も可能であり、ブラックボックス(情報非開示部分)もないと発表されております。F-15SEは、F-22よりは日本でのライセンス生産の実現性が高いとは言えますが、アメリカによるステルス技術についての情報開示がどこまで行われるのか不明な点があります。

上記の話からするとタイフーンが一番いいんじゃないのかということになりますが、タイフーンは将来を見据えると性能的に不安です。何年か後に「タイフーンを導入したけど、やっぱり性能的に不安だから別の機体を導入する」という話にもしなったとしたら、「タイフーン導入のためのコストを無駄にかけ、空自で扱う機種を無駄に増やして煩雑にしただけ」ということにもなりかねません。

「安いタイフーンを多めに導入して、日本も数の充実を図ればいい」と考える人もいるかもしれませんが、機体が増えればその分整備員などの地上要員も多く必要になり人件費がかかります。また、ひとつの航空自衛隊基地で扱える機体数にも上限があります。それに機体数を増やすとなると訓練などでの離発着回数が増えることにもなりますが、日本では自衛隊機の離発着機数を神経質にカウントしている“平和団体”などの方々がいらっしゃいます。

その点、F-15SEは(ボーイング社の言うとおりなら)タイフーンよりも性能的に上と思われますし、それに何より日本は長年F-15Jを運用してきた実績があります。F-15JとF-15SEは中身的にはかなり違うものですが、整備なの点などを考えるとタイフーンよりもF-15SEのほうが日本にとっては扱いやすい機体と言えるでしょう。

ただF-15SEには別の問題点もあります。それはF-15SEが、複座型前提の機体ということです。空自は、「F-Xには単座機が望ましい」としてきました。なぜなら一人乗りであれば、(日本において貴重な)パイロットという人的資源を有効に活用できます。ボーイング社は「F-15SEを単座型にすることも可能」と発表していますが、やはりこの発表もどこまで額面通りに受け取って良いのか少々疑問です。

今後予想される空自F-Xのシナリオは?

結局のところは、F-22の輸出が認められるか否かが最大の焦点になってくるでしょう。例えライセンス生産ができないとしても、空自は(可能であれば)F-22を導入したがるでしょう。「では三菱の戦闘機生産ラインはどうするのか」ということになりますが、そちらではタイフーン(もしくはF-35)をライセンス生産させることにより維持を図ろうとするのではないかと思います。どのみちコスト的に、空自の全戦闘機をF-22で揃えるのは無理があるので、F-22とタイフーン(かF-35)のハイ・ロー・ミックス運用(高性能で高価な機体の不足を、廉価な機体の数で補う運用)を希望するのではないでしょうか。F-22の性能を考えると「空自で扱う機種を無駄に増やして煩雑にしただけ」と言われることはまずないでしょう。またF-22を「ハイ」にもってくるのであれば、タイフーンを「ロー」に割り当てても“性能の不安”はそれほどないと思われます(F-35の日本でのライセンス生産の可能性については不透明な要素が多いので、とりあえずここでは置いておきます)。

ではF-22の輸入が認められなかったら? その時は、空自でのタイフーン導入の可能性も同時に消えるのではないかというのが私の予想です。その時はF-15SE(FX)をライセンス生産して、将来のF-35導入までの繋ぎにしようとするのではないでしょうか。

北朝鮮情勢との絡み

個人的には、最近の北朝鮮情勢の緊迫化は、(北朝鮮にとって皮肉なことに)F-22輸出解禁の後押しとなる可能性もあると思っています。最近の北朝鮮の暴走の結果、アメリカ、中国、ロシア各国が一番危惧しているのは“日本(と韓国)の軍拡、核武装”です。そのためアメリカとしては“核兵器不拡散”の観点からも、「F-22は輸出してやるから、核兵器はやめとけ」と日本をなだめにかかる可能性が出てきそうです。

中国、ロシアはF-22輸出解禁とは直接影響はありませんが(もっとも中国ロビーがF-22輸出禁止のためにアメリカで動いているという話もあります)、現在日本で敵基地攻撃能力保持の議論、核兵器保有の議論が起こっているのは両国にとって気持ちのいい話ではありません(両国にとっては「日本は軍事的恫喝に屈する国」でありつづけてほしいわけです)。日本の軍事力強化に繋がるくらいなら、北朝鮮に圧力をかけるほうを選ぶでしょう。

そのためF-Xの話とは少々離れますが、日本は敵基地攻撃能力や核兵器保持についても、感情論や形ばかりの平和論で拒否するのではなく、真剣に議論すべきです。敵基地攻撃能力はまだしも核兵器保持となると、日本も大きなリスクも伴うことになるので「間違いなく導入すべき」と言う気は私にはありませんが、メリットとリスクを冷静に検討して議論することにより、中ロによる北朝鮮への圧力も期待でき、北朝鮮をおとなしくさせることにも繋がると考えています。