『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊 2.0』について個人的感想

非常に今更だが、BDとDVDの発売も近いということで、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊 2.0』についての個人的な感想を書いてみたいと思う。

『2.0』での目玉の一つは「新作3DCGカット」ということだが、完全にCGに差し替えられたカットは予想よりも少なく、その点ではやや拍子抜けした。さらに、完全CGに差し替えられている素子のカットは(箇所は少ないが)賛否両論あると思う。正直なところ、私は各シーンで素子をCGにした意図がよく理解できなかった。どうしても、セルで描かれた素子のシーンとの違和感がぬぐい去れなかったのだ。特に冒頭シーンは、町並みをCGにして密度を上げたかったのだろうが、セル画の素子を残したままでもやりようがあったのではないかと思えた。一方で『イノセンス』とあわせるため、サイボーグ素子が組み立てられるシーンのほうも、セル画の素子の一部がCGになるのかと思ったら、そこはセルのままであったから、余計に解らない。
また、劇中のヘリコプターなど一部のメカもCGに変えられているが、これもやはり全てがCGにされたわけではない(押井氏は狙撃用ヘリもCGにするつもりだったが、アニメーターが描いた渾身のヘリの作画を潰さないでくれと言われ寄ってたかって止められた、という噂を聞いたことがある)。『イノセンス』との統一感を出すということであれば、車をCGにするのは必須だと思われるのだが、こちらもセルのままで手つかずだった。
ただ、劇中の電脳画面やディスプレイ表現は赤~オレンジの色に統一されており、『イノセンス』と世界観を繋ぐ上で役立っている。さらに、一見しただけでは『1.0』と差がよくわからない場面でも、色調の調整やフィルター処理などが施されている箇所があり、より映像の濃度が上がっている。

もう一つの『2.0』の目玉である音響は、素晴らしいの一言に尽きる。この音響を家庭で十分に味わうにはそれなりのアンプが必要だろうが、劇場で聞いたところ大満足だった。特に個人的に気に入ったのは銃声で、恐らく本物の銃声を元にしているのであろう。拳銃は拳銃、サブマシンガンはサブマシンガン、アサルトライフルはアサルトライフルと、銃声がちゃんと聞き分けられるのである。その差が具体的にわかる人はあまりいないとは思うが、音に対するこだわりが銃声にも表れているということだろう。各所で音の広がり、音の密度がとてつもなく増し、マルチチャンネルの効果も素晴らしい。

あと、『2.0』の大きなポイントである大きな声優について。
最初私は、冒頭シーンの素子の「生理中なんだ」というセリフを聞いて驚いた。(サイボーグのため)田中敦子氏は『1.0』では非常に無機質な声で演じていたのに対し、恐らく意図的なのだろうが他のシーンでも『2.0』では素子を非常に人間的に演じられている。
そして押井守監督は、賛否両論あるのを覚悟の上で、『1.0』の家弓家正氏に代わって人形使いに榊原良子氏を人形使いに起用したという。この人形使いが女性になったことで、物語が全く違う解釈ができるようになったのである。

『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』は、人間としての自分に疑問を持つ草薙素子と、情報生命体である人形使いの「結婚」の話であると、過去何度も語られてきた。だが人形使いが女性になったことで、この「結婚」という大前提が崩れたと見ることもできる。「天使」も登場しないことから、素子と人形使いの融合の意味が異なると解釈することは間違いないだろう。
『1.0』より人間的な素子が、どうして「同性」の人形使いと融合したのか? これについての解釈は人それぞれだろうが、私はこの『2.0』における変更は、『イノセンス』において素子がバトーの元に戻ってくるための布石としてのものではないかと感じた。つまり、素子は人形使いと融合しても「女」のままであり続けるのである。

『2.0』は「バージョンアップ」とはなっているが、互換性を維持したバージョンアップではない。つまり『1.0』を越えて塗りつぶすために作られた映画ではなく、『1.0』のリメイク的なものが『2.0』と言える。そして私としては『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊 2.0』は、単体ではなく『イノセンス』と一緒に見るための映画になったのだと思う。

なお『2.0』のBDマスタリングの出来についての話などは、もしAV Watchでやらなかったら時間があったときにでも書こうかと……。